「海外ドラマで生涯ベストは?」と問われたら、私は迷わず『ブレイキング・バッド』(以下『BB』)と答える。余命わずかの肺癌と宣告された冴えない化学教師ウォルター・ホワイトがその知識を悪用して覚醒剤を生成し、家族や友人を巻き込んで“悪の道”へ堕ちていく物語だ。このドラマ史に残る傑作は2013年にシーズン5で完結した。

 だが、伝説は終わらない。その後に制作されたスピンオフシリーズ『ベター・コール・ソウル』(ネットフリックスで配信中)も素晴らしい出来映えで、いよいよ佳境を迎えつつある。主人公は『BB』に登場したお喋り弁護士ソウル・グッドマン。物語は彼が『BB』に登場する6年前から始まる。彼はジミー・マッギルという本名で活動し、服装も地味。いかにも貧乏弁護士という風体だ。そこには『BB』で見たイケイケ弁護士の面影はない。だが、冴えない男は次第に金と暴力が渦巻く“悪の道”へ足を踏み入れていく。その姿は『BB』の主人公ウォルターを彷彿とさせる。そう、本作のストーリーはまさに『BB』と表裏一体の関係にあるのだ。

©佐々木健一

 このドラマシリーズが一貫して描くのは、因果応報の物語。最新のシーズン5の終盤にはこんな台詞が登場する。

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「人はみんな選択する。その選択が“道”を決める」

 どんな小さな選択でも、それが後に命取りになる。そうした人生の儚さや人間の愚かさを、緻密な伏線と繊細な人物描写で見せていく。白眉は、結末が分かっているのに目が離せない点だ。文字通り、本作は『BB』の前日譚。登場人物の行く末も観客は知っている。しかし、複雑に入り組んだ人間模様や背景から、前作『BB』で見ていた景色はこの巨大なサーガのごく一部に過ぎないことを知るのだ。

 本作は来年配信予定のシーズン6で『BB』とドッキングし、完結を迎える。未見ならば是非、前作から見ることをオススメしたい。

INFORMATION

『ベター・コール・ソウル』
https://www.netflix.com/jp/title/80021955