すこし前のテレビコマーシャルに、目を引くものがひとつあった。アメリカ人と思しき男性が、日本の住宅とはかけ離れた広いキッチンスペースで、料理中にiPhoneを落としたり、濡らしたり、粉まみれにしたり……。修理にいくらかかるのかと、見ていてひやひやする映像だった。

Appleのコマーシャル映像より抜粋。iPhone 12が過酷な取り扱いに耐えることをアピールしている。

 これはAppleのコマーシャルなので、「iPhoneは苛烈に扱っても壊れない」という演出だ。同時に、最新のiPhone 12が「かつてないほど頑丈」と明言していた。

 そんなiPhone 12の発売は2020年10月であり、市場投入からすでに約1年が経過している。もうじき新型のiPhoneが発表されるはずであり、日本におけるiPhoneのシェアも考えれば、「iPhone 12を壊してしまった人」がたくさんいてもおかしくない時期だ。

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 しかし「iPhone 12 バキバキ」でSNSを検索しても、「iPhone 12のフロントパネルを壊した」というユーザーはごく少数で、「古いiPhoneを落として壊したから、iPhone 12に機種変更した」という書き込みがほとんどを占める。

 コマーシャルのウリ文句とはいえ、「かつてないほど頑丈」というのは、あながち嘘でもなさそうだ。

「どうせ落とせば割れるんでしょ?」という不信感を逆手にとったCM

 一世を風靡したiPhone 4(2010年発売)の頃、スマホの筐体はまだ小さくて、片手でも容易にホールドできた。流行っていたのは「なめこ」を育てる地味なアプリで、「LINE」さえ存在しなかったため、歩きスマホは少数派。不意に落とす場面も少なかった。

 しかし2010年代を通じてスマホは大型化、持ちにくくなり、全国的に「バキバキ」の被害者が増えていく。Appleも一応、モデルチェンジのたびに素材が強化されたことを主張していて、1世代前のiPhone 11でも「スマートフォンの中で最も頑丈なガラスを採用」と謳っていた。

公式サイトより。素材には耐久性を高めた「セラミックシールド」を使用しているという。

 しかし我々ユーザーの側は、何台ものバキバキiPhoneを見てきたせいで、「どうせ落とせば割れるんでしょ?」という不信感を持っている。その不信感を逆手に取ったのが、冒頭で挙げたiPhone 12のコマーシャル映像だったわけだ。