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医療ツーリストを積極的に受け入れるアメリカ

――2010年に政府が新成長戦略を提唱した際、日本医師会は当初、外国人の患者や検診者の受け入れに難色を示したと聞いています。取材をしていると、ここ数年で日本側病院の理解もずいぶん進んだように感じますが……。

 そうですね。非常に変わりました。

――ただ、2010年から7年が経ちますが、いまだに訪日外国人医療ツーリストの正確な人数がわからない(医療滞在ビザ発給数の統計はあるものの、大部分の医療ツーリストは観光ビザで入国・滞在しているため)など、日本側の体制はまだ発展途上というイメージです。エージェントとしての苦労はありますか。

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 ええと……。訪日外国人医療ツーリストの受け入れ基準や予約を取るまでのプロセスについて、日本側の各病院の受け入れ体制の標準化が進んでいない点は、業界全体として悩ましい部分ではないかと思います。

 もちろん、中国側の検診者や患者も、経済力や教育水準や消費習慣がまちまち。私たちエージェント側としても「中国人のお客さんはこういう人たちだ」と一言で説明がしにくいという問題もあります。私(陳)はもともとIT企業で勤務していたのでどの業務でもなるべく標準化していきたいという考えを持っているのですが、この業界ではなかなか難しい部分もありますね。

――これは行政や医療の業界に限った話ではありませんが、日本と中国のビジネスのスピード感の違いについても、中国人側から見ると歯がゆい部分もあるようです。

 ある公的機関に3年前に営業に行って「国際化準備課」という名刺を渡されたのに、いま営業に行っても、ずっと「準備課」のままで何も動いていないとか(笑)。そういうのですかね。

――無意味に組織だけ作って何もしないというのは……。今回、取材したある地方行政機関もそんな感じでした。

 リスクに慎重なのは悪いことではないはずですが、スピード感の違いはありますよね。

――中国人の医療ツーリズムの行き先は日本だけではないと思います。他にどういう国が人気なのでしょうか。

 アメリカ・ドイツ・スイス・インド・韓国あたりでしょうか。中国国内ではそれぞれの国に対して、得意分野のイメージがあります。がん治療に関しては、やっぱりアメリカ。再生医療になりますとドイツやスイス。韓国は美容整形ですね。インドは不妊症。

 日本については、近年は治療目的で来日する方も増えていますが、やはり「検診」のイメージが根強い。たぶん、中国国内の医療ツーリズム業者が、マーケティングの上で各国の特徴を際だたせるためにラベリングした面もあると思います。

――なるほど。

 日本の医療機関とアメリカの医療機関を比べると、アメリカの医療機関のほうが積極的に中国に売り込みをおこなっているようです。事務所を中国国内にも置いたり、「出店」ならぬ「出病院」……つまり中国分院を作ったりですね。アメリカの病院はかなりの費用を中国国内向けに投資して、医療ツーリズムの宣伝を行っています。

 最近は日本国内の地方行政機関や病院もインバウンドの医療ツーリストの受け入れに積極的な姿勢を示していますが、まだアメリカのような動きは少ないですね。

福祉か? ビジネスか?

 アメリカの医療は高度に商業化されているため、中国国内で積極的に宣伝を打って医療ツーリストの獲得に懸命な姿勢を示す。いっぽう、日本は国民皆保険制度のもとで、医療を「福祉」とみなす考えが、医療界にも厚労省にも根強い。2010年に政府が提唱した新成長戦略は、そんな日本の医療界に大きな転機をもたらすものだったとも言えそうだが……。

 訪日中国人医療ツーリストは、日本の医療業界の救世主か。それとも、従来の日本の福祉を商業化へと舵を切らせることになる新たな脅威か? 詳しくは「文藝春秋」2017年 12 月号(2017年11月10日発売)の寄稿記事をご覧いただきたい。

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