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「日本でいえば“織田信長”と説明していたが…」“力がすべて”のタリバンに持ちうる「2枚の交渉カード」とは

「日本でいえば“織田信長”と説明していたが…」“力がすべて”のタリバンに持ちうる「2枚の交渉カード」とは

元国連アフガン特別ミッション政務官・田中浩一郎氏インタビュー#2

2021/09/11
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田中 選挙という制度は認めないですね。タリバンは、地元アフガニスタンで幾世紀にもわたり続いていた意志決定機関・ロヤジルガ(全国長老・部族有力者会議)ですら否定するわけです。ロヤジルガの代議員は、例えば長老格や部族長のような人たちが伝統的に選ばれる。ところが、タリバンはそれすら「非イスラム的」と否定していました。彼らが求めていたものは、ウラマー(宗教指導者)による会議です。

 つまり、イスラム法、シャリーアによる統治です。その「シャリーアを緩めます」といったらウラマーたちが黙ってない。タリバンがシャリーアの厳格適用をやめることは無理、というのが私の結論です。構造的にできない。そこに手をつけてしまったら、タリバンはタリバンでなくなってしまうのです。

〈2001年以前のタリバン政権時代から、タリバンのイスラム法解釈の強硬ぶりを象徴する存在として「勧善懲悪省」という奇矯な名の省庁があった。人々がイスラム法に違反していないかを取り締まる「宗教警察」で、銃を持って街頭をパトロールし、女性が身内の男性を帯同せずに歩いていないか、全身をすっぽり覆うブルカを着用しているか、顎髭の短い男性はいないか、音楽を楽しむものはいないかなどを見張った。

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 アフガニスタン1500年以上の文化遺産であるバーミヤンの大仏像の破壊を命じたのも勧善懲悪省だ。そして、今回の組閣でこの「勧善懲悪省」が復活し、「大臣」が任命された。20年前を知る人々の「悪夢」が再び現実になるのだろうか。〉

高木 現在のタリバンの指導者とされるハイバトゥラー・アフンザダ師は、どんな考えを持っているのでしょうか。

田中 ハイバトゥラーは90年代に一時、勧善懲悪省のトップだった人です。20年経って多少変わったとしても、彼はシャリーアの厳しい適用と、それが色濃く反映された社会制度を作ることになるでしょう。

現在のタリバン指導者とされるハイバトゥラー・アフンザダ師 ©AFLO

 私が注目しているのが、組閣を発表したムジャヒド報道官が、会見の最後に「制度や法はこれから作っていくが、それらが決まり発表されるまでデモは禁止だ」と言ったことです。この先、タリバン政権の考えることに反対する人々は、叩かれ、銃で撃たれることもあり得ると危惧します。彼らはそれをためらいなくやるのです。

 実は、タリバンの中心にいた人で、ここ数年で外された人が結構います。この人たちのうちの一部とは、僕もある時までメールのやり取りがありました。90年代のタリバンのやり方に関して、間違えたということを彼らは認識していました。ある種の反省や自省がありました。その後も、彼らはタリバンに残っていたのですが、今回の組閣の30人以上のメンバーにも全く名前が出てきませんでした。

 私が「良識派」と呼んでいる彼らがいま表に出てこない。このことからも、タリバンの中枢部では「武闘派」が優勢で、これまでのタリバンのあり方に反省をする人たちに対しては非常に冷たいことが推測されます。