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 私の経験でも、タリバンは人の子だし、人の親です。話をすれば一人の人間だとわかる。彼らの中には心境や内情を吐露してくれた人たちもいます。ところが、その普通の人が、内戦の最中とはいえ組織となると、とてつもなく残虐なこと、人間のする所業ではないようなことをやってのける。

 少し話は逸れますが、第2次世界大戦の時のナチスの研究をした哲学者、ハンナ・アーレントが言ったように、個人としては普通の人が作り上げる全体主義やホロコーストのような惨劇も歴史上あったわけです。こうした側面を直視しないと「タリバンとは何者か」と言う問いに向き合うことはできないと思います。

 タリバンに対する解釈に関して、「普通の人」説が日本で独り歩きして、「国際社会が軍事力で作り上げた“民主主義の幻想”を壊したタリバンに正義がある」と結論付けてしまうことは避けなければなりません。

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タリバンに持ちうる「2枚の交渉カード」

高木 先ほどのお話では、今後、「強硬派」に勢いをつけさせないためには、日本も含めた国際社会もある種の融和姿勢が必要だということでしたが、同時に田中先生は、タリバン政権の国際的な承認は簡単にするべきではないと主張されていますね。

田中 難しいバランスが求められます。政権の承認は国際社会が持っている数少ないカードです。もうひとつあるのがお金ですが、これまでのアフガニスタン政府に対して供出してきたようなお金が無条件に渡されるとタリバンに思われても困る。われわれはタリバンに対して、ほとんどレバレッジ、つまり彼らを動かすテコを持っていないわけです。

 あるのは、政権の承認とお金の2枚のカードだけです。それらは大切に使わないといけない。かといって待っているだけではいけませんから、「エンゲージメント(関与)」し続けることが必要です。アフガニスタンの国民が飢えていることは間違いない。人道支援は続けて行くことも大事なポイントです。

隣国パキスタンに逃れたアフガニスタン難民 ©AFLO

高木 ここまでのお話をお聞きすると、タリバンのもとで、急速にアフガニスタン国内の状況が悪化することも予想されます。この先どうなるのでしょうか。

田中 このままでは、よくて90年代のタリバンが我が物顔で歩いていた時代に戻るだけでしょう。もう少し悪くなると、フェイルドステート(失敗国家)になりかねない。せっかく、これだけ世界の様々な人がかかわって、医療や教育の向上や女性の社会進出など数字で見える成果もあった。それが消えてしまわないように何とかしたい。

 結局はタリバンが、どういう政治をするかです。国際社会は、彼らの首根っこをつかまえて「こうしろ」と指導することはできません。他方、言葉でタリバンを誘導することはまだできるかもしれない。難しいことですが、その努力を続けるしかないと思います。