「最初にオファーを受けたとき、なんでオイラなんだろうって思いました」

 そう語るのは、俳優の古田新太さん。9月23日全国公開の映画『空白』(監督:吉田恵輔)で狂気にまみれる父親を演じた。

古田新太さん

 スーパーで万引きを疑われて店長に追いかけられた女子中学生が、逃走の末に車に轢かれて死んでしまう。娘の無実を信じる父親は店長を激しく追及するうち、怒りにまかせて暴走するモンスターと化していく。

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「地味な作品だし、ちょっと社会派の匂いもするし。オイラはエンターテイメントが好きだから、なんでだろうって。理由を吉田監督に聞いたら、『古田さんしかいないとおもって書いた』と。当て書きしてくれていたんです。オイラ、怖く見えますから(笑)」

 古田さん演じる漁師でシングルファーザーの添田充は、松坂桃李が演じるスーパーの店長に執拗に迫る。その様子がテレビで流れると、ワイドショーなどの報道も過熱し、インターネットやSNSでも噂や誹謗中傷が拡散。田畑智子や藤原季節、趣里らが演じる周囲の人たちも次第に混乱に巻き込まれていく。

「充は、とにかく人の話を聞かない。万引きなんかするはずないんだってずっと思っている。そういう人は恐怖の対象になりますよね」

『ヒメアノ~ル』『愛しのアイリーン』といった作品で知られる吉田監督は、本作で「笑い」を封印。それは古田さんにしても同じだ。

「カメラが回っているときしか怒ってないですけどね。笑いと違って怒るのはテクニックが必要ないから楽でした。吉田監督とは初めてです。追い込み型かと思っていたらそうじゃなくて、楽しいことばかり言ってました。撮影中も桃李がビビっているのを見てニコニコしていましたから。癖で笑いを取りたくなるそうですが、この作品ではそれはやらないって」

 古田さんの信条は「覚えてきた台詞をちゃんと言う」。

「監督に対して完璧にイエスマンなんです。早く撮影を終えて飲みたいですから。撮影はコロナ禍の前でしたが、よく行きましたよ。今回はみんな監督に逆らわないイエスマン集団でした。ハードなシーンのあとでも、カットがかかったらすぐどの焼き鳥屋に行くかの話をしてました」

 古田さんにも一人娘がいる。

「充と同じなのは、何も知らないということ。小さい頃から『オチのない話をするな』って育て方をしていたので、娘が気を遣っているのかもしれないですけど。いまでは一緒にお酒を飲む関係です。充と違うのは、娘からも奥さんからも嫌われたくないと思っているところですね」

 娘に無関心だった添田だが、ある出来事をきっかけに娘を理解しようとする。狂気と打って変わって繊細さすら感じさせる古田さんの演技も見どころだが、自身はスーパーのパート店員を演じた「寺島しのぶが見どころ」と言う。

「自分の正義ばかり押しつける、本当に嫌な役なんです。まさにそういう人たちが観て反面教師にしてほしいですね」

ふるたあらた/1965年生まれ。兵庫県出身。大阪芸術大学在学中にデビュー。「劇団☆新感線」の看板役者。近年も『超高速!参勤交代 リターンズ』『土竜の唄 香港狂騒曲』などの映画や、テレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』『俺のスカート、どこ行った?』『半沢直樹』など数々の作品に出演。

INFORMATION

映画『空白』
https://kuhaku-movie.com/