シーズン奪三振数世界記録保持、オールスター9者連続奪三振、延長11回ノーヒットノーラン……。数多くの伝説を野球界に残してきた江夏豊氏は「20世紀最高の投手」と評される偉大なプロ野球選手だ。そんな男の記憶に残る名打者とは……。
ここでは江夏豊氏の著書『強打者』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋。同時代に火花を散らし合った伝説的選手への思いを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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王貞治(一塁手)/868本中、特別な3本塁打
●40年5月20日生まれ、東京都出身。177センチ、79キロ。左投げ左打ち
●早稲田実高〈甲子園〉→巨人(59年~80年)
★通算22年2831試合2786安打、打率.301、868本塁打2170打点
★首位打者5度、本塁打王15度、打点王13度、最多安打3度、盗塁王0度
★MVP9度、ベストナイン18度、ゴールデングラブ賞9度、球宴20度
★主な記録=通算868本塁打(世界記録)、三冠王、1試合4本塁打、7試合連続本塁打、サイクルヒット、16年連続100四球、通算故意四球427
【江夏との通算対戦成績】258打数74 安打、打率.287、20本塁打、56打点、56四球、57三振
まず、確実性(首位打者)・長打力(本塁打王)・勝負強さ(打点王)の3つを兼備する、三冠王の獲得者から振り返ろう。各章、打者の年齢順に対決エピソードを語るが、敬意を表して「トップバッター」だけは、「世界の本塁打王」王貞治さん(巨人)だ。
王さんは高校二年時にセンバツ甲子園でエースとして紫紺の優勝旗を手中に収めた。
プロ入り後、類まれな打撃センスを生かして打者に転向したが、素質がなかなか満開とはならなかった。タイミングを取るための1つの練習法がいわゆる「フラミンゴ打法」(一本足打法)だった。巨人がBクラス4位に沈んだ62年のこと。
フラミンゴ打法で二冠を獲得
「勝てないのは王が打っていないからだ!」(別所毅彦投手コーチ)
「ホームランだけならいつでも打てる。三冠王を獲らせようと指導しているんだ」(荒川博打撃コーチ)
その日の試合からフラミンゴ打法で打つようになった王さんは、その年38本塁打85打点で二冠を獲得した(打率.272)。この年から13年連続本塁打王に輝くのだ。その後の大活躍は、読者の皆さんご存じの通りである。
私のプロ入り1年目の67年、チームの先輩の「2代目ミスター・タイガース」村山実さん(阪神)は甲子園球場でこう言った。
「オレのライバルはこっち(長嶋茂雄)、豊(江夏)のライバルはあっち(王貞治)だ」