文春オンライン

「小2の藤井少年は将棋盤に覆いかぶさり、火が付いたように泣いて…」谷川九段が見た“飛躍的な成長”に必要なコト

18、9歳でこの境地に達したら、 他の棋士はたまらない

2021/10/08
note

 奨励会では、対局が行われる例会の日は、ピリピリとした雰囲気に包まれる。礼儀作法にも厳しい。

「全国からその地区では敵なしの強い少年たちが集まってきますから、なかなか勝てなくなります。終わった将棋を反省し、次につなげていかなくては上達しません。

 ただ上達というのは、見かけ上は、右肩上がりの直線ではなく、階段状の線を描くことが多い。練習どおり結果が出る時期もあれば、足踏みする時期もある。苦しい時期も諦めずに努力を続けると、その先で飛躍的に力が伸びる。この繰り返しです」(谷川九段)

ADVERTISEMENT

 実際、奨励会に入ってもプロになれるのは2割ほど、年齢制限の26歳まで戦う会員もいるが、見切りをつけて若いうちに退会していくケースのほうが多い。

©共同写真イメージズ

 藤井三冠と同じ杉本昌隆八段の門下には、東京大学文学部4年で将棋部の主将も務めた伊藤蓮矢さん(22)がいる。

 伊藤さんは、中学1年で入会した奨励会を高校1年で退会した。小学校時代はメジャーな子ども大会で何度も優勝する有名強豪。ところが奨励会では思うように勝つことができなかった。伊藤さんは「今にして思えば、自分の弱点を見つめ、その穴を埋めていくような努力ができていませんでした」と振り返る。

「プロになる人には皆、奨励会で急に伸びる時期があるけれど、自分には来ませんでした。続けていれば来たのかもしれませんけれど。どんどん昇級していく3歳下の藤井三冠を見て、自分は見切りをつける気持ちが生まれていきました」

 藤井三冠には、逆境をプラスに変えるしなやかさもある。

©共同写真イメージズ

 新型コロナウイルスの流行により、1回目の緊急事態宣言が出た昨年4月上旬から5月下旬の間、将棋界もタイトル戦や移動を伴う対局がすべて延期となった。東京や大阪在住棋士の対局は行われたものの、愛知県在住の藤井聡太七段(当時)は約2か月間、対局できない状態に。そのときのことをこう語っている。

〈ずっと自宅待機だったんです。高校も休校となっていました。自宅待機の間は家でAIを使いながら、苦手だった序盤の克服に努めていました〉(『考えて、考えて、考える』)

 6月に対局が再開されると、棋聖戦、王位戦の2つのタイトル戦で勝ち上がり、立て続けに挑戦者となって、2つともタイトル獲得に成功し、二冠となった。7月に最年少タイトル獲得記録を打ち立て、明るいニュースとして大きな注目を浴びたことは記憶に新しい。

 この1つの要因となったのが、自宅待機中のAIを使った弱点の克服というわけだ。