そして、ついに結婚へ…
中学の頃の同級生何人かと飲んでいると「今月営業ノルマきつくてさー」「今年中に会社から独立しようと思ってんだよ」など、みんな仕事の話に花を咲かせる。すると唐突に「最近どうなの?」と僕に話が振られ、僕は口ごもりながら「まぁぼちぼち……」と曖昧な返事を返すのだ。
次の日の昼過ぎにスーパーで買い物をして帰る途中、河川敷で野球をしている小学生のボールがこっちに転がってくる。僕は「兄ちゃんこっちこっちー!」と呼ぶ小学生の方にボールを投げ返し、その流れで小学生に混ざって本気で野球をするのだ。日も暮れてきて、夕方「兄ちゃんまたなー」と小学生たちは散り散りに帰っていく。僕は土手でひとりスーパーの袋を片手に、ぼんやり空を見ながら「就職かー」と呟く。
そんなある日、僕が家でテレビゲームをやっている横で、それを見ていた彼女が急に「ねぇ」と話しかけてくる。僕がゲームをやりながら「ん?」と聞くと、彼女は「子供できた」と言うのだ。ゲームをする手を止め、やっていたシューティングゲームは敵の攻撃を受け「バーン!」という効果音と共に画面に『GAME OVER』と表示される。そして僕は彼女の方を向き「そっか、じゃー結婚するか」と言うのである。
結婚を決めた僕は運送会社に就職し、彼女と一緒に住むことになる。こうして僕の一人暮らしは終わりを迎えるのである。
これが僕が10代の頃に思い描いていた一人暮らしだ。想像にしては夢がない。憧れていたわけではないのだが、こうなるんだろうなぁ、という予感がしていた。
今の一人暮らしはあの頃の想像とは全く違うけれど、決して悪くはなさそうだ。だが、今でもたまにこうやって、昔思い描いていた暮らしをしばらく想像してみるのである。
(撮影:山元茂樹/文藝春秋)
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