哲学者・土屋賢二さんによる「週刊文春」の人気連載「ツチヤの口車」。老若男女を問わず国民的に愛されるユーモアエッセイの連載は、今年で25年目を迎えた。初の愛蔵版『妻から哲学  ツチヤのオールタイム・ベスト』の刊行を記念した特別インタビュー。

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こんな“逆境”に耐えられる人間とは思っていなかった


――1997年の新年号から続く「ツチヤの口車」は、「週刊文春」のなかで林真理子さんに次ぐ、超長寿連載ですね。

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土屋 何をやっても三日坊主だった僕がこんなにも長続きしたんだから驚きです。理由は不明です(笑)。ほかに長く続いたのは大学くらいですが、お茶の水女子大に勤めてた頃はときどき仮病つかって休みをとっていたのに、週刊文春の連載は一回も休んでいない。自分が入院した時も、学部長でとんでもなく忙しかった時も、両親が亡くなった時も。我ながらこんな“逆境”に耐えられる人間とは思ってませんでした。

土屋賢二さん

――“逆境”ですか!?

土屋 一番の苦労は何かって、とにかく書くことがなくなってしまうこと。まじめな内容じゃないぞとわかってもらうために、最初「棚から哲学」というタイトルでスタートしました。最初の数回は書くことがあったんですけど、その後何を書いたらいいのか全く出てこない。毎日大学との往復なので、面白い出来事が起こるわけもなく、毎週毎週いよいよ土壇場になってからでっち上げるスタイルで、よくもまあ24年続けてこられたと思います。

連載が思いのほか好評だったことには心底驚いた

――連載スタートの当時、日本で哲学者のユーモアエッセイというジャンルはなかったですよね。

土屋 僕のようなスタイルで書く人は全くいなくて、僕の女房とか弟とかに読ませても「なにこれ?」みたいな反応でした。だから全く自信がなく、当時の「週刊文春」の編集長もはじめは「だれがこんなもの読むんだ?」と連載にあまり気乗りしていなかったみたいです(笑)。連載が始まって思いのほか好評だったことには心底驚きました。

――先生の文章の、ある種欧米的なユーモアのセンスはどこから来ているんでしょうか。

土屋 僕が一番好きなのはマーク・トゥエインですね。日本では『トム・ソーヤの冒険』や『ハックルベリーの大冒険』がよく知られていますが、彼のエッセイがめちゃくちゃ面白いんですよ。例えば、ある大学の卒業式への祝辞で「皆さん、これから社会に出るにあたって、ことわざのように(早寝の)子羊と一緒に寝て(早起きの)ヒバリと共に起きることが重要になります。でもこれは、簡単なことです。ヒバリは訓練次第で遅起きになりますから」と語ったり(笑)。