毎日、判で押したような生活
――エスプリが利いてますね。
土屋 ほかにも、「船に乗ったら、船酔いで最初はもう死ぬんじゃないかと思った。しばらくすると、船酔いがひどくて、もう死ねないんじゃないかと思った」とかね。
マーク・トゥエインはいろいろな旅行記を出しているんですが、その中の一節です。あと好きなエピソードが、フランス人がアメリカの歴史が浅いことをバカにして、「アメリカ人は自分の先祖が誰であるかを知らない」と言ったら、マーク・トゥエインは「フランス人は、自分の父親が誰であるかを知らない」と切り返すんです。フランスで不倫が横行しているのを皮肉ったんです。この種のユーモアは、日本にはあまりないセンスです。
――うまいですね(笑)。先生の場合、とくに奥様をめぐるユーモラスな描写が冴えわたっていて、反響が大きくなっていきましたね。
土屋 いきおい妻の登場回数が増えていったのも、周りに面白い出来事がさっぱり起こらないからなんです。毎日、判で押したような生活だから、妻に叱られたとか、妻の言動にびっくりしたとかそんな話がネタとして増えていった。
妻の機嫌を取ろうと思ってドラ焼きを2つ買って帰ったら、「1個でよかったのに」。えっ?「私の分だけでよかったのよ」と言われたりして(笑)。
最高に面白い奥様
――なかなか手厳しい扱いですね。
土屋 いやもう、本当にね。しばらく前にある早朝のラジオ番組で、まぁ、誰も聞かないだろうって思って妻のことを喋ったんですよ。日々のふるまいについて。担当ディレクターが、「本当にいまだかつてないくらいに共感のメッセージが沢山来ました」と言うから、これでやっと僕の立場を理解してくれる人も増えたかと思って「それは僕の立場に対する共感ですよね?」って訊いたら、「いえ、全部奥様に対する共感ばかりです」と。
「これからは奥様のようになりたいと思います」とか「私は、いつも夫の歯ブラシで掃除してますが奥さまに憧れます」みたいなメッセージばかりで、ひどいんですよ(笑)。
――アハハハハッ。奥様の傍若無人な振る舞いに拍手喝采だったわけですね。
土屋 僕の話を読んだり聞いたりすると、「今まで家庭で気をつかいすぎていた」「遠慮せずにもっと自分の好きなように生きればいいんだ」って思うらしいです。
――『妻から哲学』にも楽しいエピソードが沢山出てきますが、焼きそばをつくってそばを入れ忘れたとか、メインディッシュがひじき煮だとか、前日に作ったラーメンをお客様に出すとか……最高に面白い奥様ですよね。
土屋 他人事だから面白がってられるんですよ。とにかく常識がないっていうかね。それにパッと気付かずパクパク食べてしまう僕も僕なんですが。