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「女の心理だけは謎だ」

――飄々とこんなもんかな?って受け止めている先生も哲学者らしくておかしいです。古来より、ソクラテスをはじめ哲学者は妻に苦労してきたイメージがありますが。

土屋 そもそも哲学をやっている人間はまわりから理解されにくいんですよ。なんで、そんな七面倒くさいことを一生かけてやろうとするのかと。とくに妻側から見ると、本当にこいつは大したことのない人間と思えるんでしょう(笑)。

――哲学がなかなか解けない永遠の謎に向かって考え続ける学問だとしたら、「妻」もまた解けない問いのひとつですか?

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土屋 それは本当にそうです。かのフロイトは、人間の心理はすべて解明したと自負していましたが、それでも「女の心理だけは謎だ」と言い残して死んでるんですよね。

 昔、僕の教え子の柴門ふみが言ってたんですが、子育をしていて男の子は本当に可愛い、「お母さんのことが世界で一番好きだ」って言ってくれる。ところが女の子は、3つくらいになったら、もう何を考えているのかわからない、と。

 男女の心の機微を熟知した漫画家でさえ、自分の娘の心はわからないんです。多くの女の子は2、3歳の頃から論理的能力が高いし、まわりをやり込める力がすごいし、男は全然かなわない感じがしますね。

話題が地雷だらけ

――長年のご経験を踏まえて、妻とうまくやる秘訣を教えてください。

土屋 何十年も模索してきましたけど、まだ模索中です。これかなと思って実践していると、妻の逆鱗に触れたりする。秘訣があるなら教えてほしいものです。男というものは、自分の奥さんがこうあって欲しいというイメージがあります。少なくとも結婚当初は。でも、絶対に自分の思い通りにはなりません。相手が自分の意のままにならないのなら、自分が相手の思い通りになればいい。これで7割は叱られなくなる。

 僕は、これを言うと怒るだろうなってことは絶対言わないようにしてますし、こんなことでも怒るんだという新しい発見が週に一回はある。怒られたらすぐに引き下がります。すでにこれ以上ないぐらい引き下がっているんですが(笑)。

――なるほど!

土屋 安全な話題って限られてくるんですよね。もう地雷だらけだから、天気の話題くらいしかなくて、「今日はなんか寒いね」と言うと、「いや、暖かいじゃないの」って。「あれっ、じゃあ僕の体の具合が悪いんだ」と、天気の話ですら僕は妥協しています。絶対に逆らわない。

――土屋流〈人間関係の極意〉とも言えますね(笑)。本書の幸福論の部分も、多くの人が笑いながら心に染みると思います。

土屋 これは僕自身の体験から来ていることなのですが、今日はなんでこんなに気分がいいんだろう、はずんだ気持ちなのだろうと考えたときに、「あ、今日は大谷がホームラン打ったからだ」「近所の猫と目があったからだ」と、ささやかな偶然が重なっていることに気づくんですね。何でもない偶然のなかに幸福は宿る。