まんまと「美しい」シナリオに乗せられた国民
居抜き内閣の菅政権にあって、経産省出身の官邸官僚たちは、首相官邸からほぼ一掃された。安倍の意向により、リーダー格である今井だけは内閣参与として官邸に残ったが、文字どおり参与はあくまでアドバイザー的な存在にすぎず、政策を決めるような影響力はない。今井の場合、体のいい棚上げともいえた。
今井は2021年に入り、参与のままキヤノングローバル戦略研究所の研究員や三菱重工顧問となるが、事実上、政界から離れた。また、佐伯はグロ産室から米国に派遣された。
「異を唱える官僚は異動させる」
自民党総裁選のさなか、菅はそう言い切った。つまるところそれは、“逆らう奴はクビを切るぞ”という恫喝に近い。
病気で無念の退陣を余儀なくされた首相に代わり、ナンバー2が政権運営を継承する。菅政権は、世間からそう美しく受け止められて船出した。マスコミ各社調査の6割を超える内閣支持率は、国民がまんまと政権禅譲のシナリオに乗せられた結果ともいえる。
菅政権を歓迎したのは一般大衆ばかりではない。政権発足当初、これまで今井たち安倍側近グループにいいように操られてきた霞が関の役人からも、風通しがよくなった、という声を耳にした。
だが、そんな国民や官僚たちの期待もすぐに消し飛んでしまう。これまでナンバー2として評価の高かった菅は、トップに立つとすぐに馬脚をあらわした。あげく本人の政治家としての資質そのものを疑われるようにもなる。
政治手法は変わらない
突如、生まれた菅政権は、安倍政権とどこがどう変わったのか。
安倍一強の実態は、取り巻き官僚たちによる官邸官僚主導だったと前に書いた。これまで安倍に仕えてきた側用人の佐伯前首相秘書官たち経産省出身の官邸官僚が一掃されるなか、新原浩朗だけは唯一、新政権でも経済産業政策局長として経産省に残り、政府の重要政策を担ってきた。
事務次官を目指す産政局長として19年7月の人事で安藤久佳と次官を争った。新原には今井、安藤には事務次官の嶋田隆という後ろ盾が就き、最終的に安藤が事務次官を射止めた。
嶋田のさらに後ろにいる菅が安藤次官で押し切ったとも囁かれたが、実は新原は菅とも関係が近い。その理由の一つは、菅がコロナ対策で進めたGoToキャンペーンに欠かせないからだという。GoToイートにかかわっている外食業者がこう解説してくれた。