お気に入り官僚で周囲を固める菅政権
「もともと経産省が一手に引き受けていたGoToキャンペーンでは、GoToイートが農水省の所管になり、GoToイベントとGoTo商店街を経産省が担当することになりました。新原さんは経産省における外食産業の窓口担当でもあったので、イートにも携わってきました。もともとGoToをやりたくて仕方がない菅さんと新原さんの利害が一致した結果、新政権がそのまま新原さんを重宝に使っているのだと思います」
「新原は菅政権になってからも頑張っていますよ」
今井は今でも安倍と会うとそう報告しているという。安倍にとって新原は、菅政権とのパイプ役の意味があるのかもしれない。19年9月の誕生日を迎えて60歳となり、とうに定年を過ぎているが、現在も官邸でコロナの景気対策を担っている。菅には今井や佐伯たちに対する怨念めいた感情がうかがえるが、新原だけは必要だと考えているのだろう。
政権が変わったとはいえ、菅は自らに近い官僚に頼り、政策を遂行させている。根っこの政治手法は変わらない。経産省時代の今井の先輩である長谷川は、長らく広報担当の首相補佐官を務めてきた。菅はその長谷川に代え、内閣広報官に総務官僚だった山田真貴子を起用した。彼女は菅お気に入りの女性官僚として知られていた。
山田は第二次安倍政権発足当初、女性として初めて首相の事務秘書官に抜擢された。それを強く推したのが、官房長官時代の菅だった。ただし、いざ官邸に入ると、ことあるごとに今井からダメ出しをされてしまう。あげくにノイローゼ気味になり、官邸を去る羽目になった。すると菅は、総務省に出戻った彼女を情報流通行政局長に据える。彼女はこの局長時代、東北新社の接待を受けてのちに問題になるのだが、それは後述する。
菅は自らの内閣を発足させると、再び彼女を官邸に呼び戻した。内閣広報官に任命し、総理の記者会見を取り仕切らせてきた。
安倍政権時代から続く官邸官僚たちは、みなエリート官僚に違いないが、彼らは古巣の官庁でトップになり損ねた、いわば逸れ官僚でもある。そのうち新政権では、首相の威を借りて政策を進めてきた今井たち経産官僚グループが駆逐された。残る官邸官僚たちで、今井のように総理の分身と呼ばれそうなのが、和泉洋人だと目される。菅の政策を支えてきた側近中の側近である。