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 なかでも今回、木下は街頭演説を一切せずに、ひたすら選挙区内でゴミ拾いをして歩いていた。選挙運動としては極めて効率が悪い。そんな木下の活動を「選挙に出なくてもできるだろう」と批判することは簡単だ。

 しかし、木下がタスキをかけてゴミ拾いをしていると、いろんな人が声をかけてくれたという。木下を見かけた有権者に、選挙があることを知らせる啓発効果は十分にあったのだ。

街頭演説を一切せずに、ひたすら選挙区内でゴミ拾いをしていた木下ようすけ 撮影=畠山理仁

「タスキを見て、『そういえば選挙だね』と気づいてくれる若者や、『ありがとう』と言ってくれる年配の方がたくさんいました。私は5年以上継続的に投票に行った人にクーポンを出すことで投票率95%を目指しています」(木下)

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 投票率100%ではない。その5%はなんなのだろうか。

「100%はさすがに非現実的だろうと思って95%にしました。投票が義務化されている国では90%台の投票率の国も普通にあります。95%なら実現できると考えました」

 私が木下に会ったのは大雨の日だった。木下は傘も差さず、カッパを着た上からタスキをかけ、早稲田通りのゴミ拾いをしていた。この日は大きなゴミ袋3袋分をパンパンに集め、一度捨ててから4袋目に突入していた。

 ずっとゴミ拾いをしているのはつらくないのだろうか。

「つらいです! もう、足がパンパンで!」

 まさかの即答。それなのに、なぜゴミを拾い続けるのか。

「ゴミを拾っているとみなさんが声かけてくれますし、僕自身も気持ちがいいんです。なによりも、地域に貢献している感じがするんです」

 木下は11人中10位の523票で落選した。

 60万円の供託金も没収されてしまったが、会社を辞めずに有給休暇を取って選挙に出られることを証明した。

 こうした候補者たちの奮闘がありながら、今回の都議選の投票率が低かったことはとても残念だ。

【後編を読む】「そうそう、今、TikTokに上げた動画がバズっちゃってるんだよ」横浜市長選で見えた“オンライン”ד選挙”のリアル

コロナ時代の選挙漫遊記

畠山 理仁

集英社

2021年10月5日 発売