2021年9月、藤井聡太九段が叡王位を獲得。史上最年少19歳1ヶ月での三冠(王位・叡王・棋聖)を達成した。

 同世代の将棋界でしのぎをけずるにはあまりに存在感の大きい藤井三冠だが、木村九段は「才能の多寡をカバーする方法はある」という。はたして、その方法とはどんなものなのだろうか。

 ここではクリエイティブディレクターとして活躍し、近年は将棋界、将棋の棋士たちを精力的に取材する藤島淳氏の著書『木村一基 折れない心の育て方 一流棋士に学ぶ行動指針35』(講談社)より、一部を抜粋して紹介する。(全2回中の1回目/後編を読む)

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※文中の段位や呼称は、執筆当時のものです。

©文藝春秋

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自分がやるべきことに集中する 今日出来ることに集中する

 将棋界の話題は藤井二冠に集約していく感がある。それだけ大変なスターが登場したということだ。ただし、とても気になることがある。プロを目指す方は、子ども時代から地域の天才少年だった。才能に満ち溢れていると思われていた。それが奨励会に入って切磋琢磨を繰り返し、ほんの一部だけがプロに上がる。挫折していく方が圧倒的に多い。いったい、プロ棋士は才能をどう見ているのだろう?

写真提供:日本将棋連盟

 才能を表す事実がある。加藤一二三さん、谷川浩司九段、羽生善治九段、渡辺明三冠……、中学生でプロ棋士になれば名人位に就ける。いずれ藤井二冠も加わると見られている。

 藤井二冠の登場で盛り上がるけれど、先輩棋士たちは、内心、その才能に嫉妬したり、忸怩(じくじ)たる思いを抱かないのだろうか? 将棋を極めようとすれば、才能の多寡に行き着いてしまいそうだ。藤井二冠とタイトル戦を争った木村九段にどうしても聞いてみたかった。

「そうですね。才能の多い少ないは、きっとあるのだとは思いますが、では、自分がどのあたりなのかは分からないですね」

 ああ羨ましいな、とは思います。

 自分には越えられない、自分には会得出来ない何かがあるというのは分かります。

 それが絶望感につながるかと言えばそんなことはないのです。

 何らかのカバーする方法があると思っています。