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特集観る将棋、読む将棋

将棋AIよりも大切なのは“執念”ともいえる“個人的な熱い想い” 木村一基九段が持ち続けた「折れない心」の源に迫る

『木村一基 折れない心の育て方 一流棋士に学ぶ行動指針35』より #2

2021/10/23

「千駄ヶ谷の受け師」という異名を持つ木村一基九段は確かな実力を持ちながら、なかなかタイトルに手が届かない棋士として知られていた。初めて悲願を達成したのは46歳3ヵ月でのこと。これは史上最年長でのタイトル初獲得だ。

 諦めず、棋士道を突き詰めてきた木村九段。そんな男について、将棋界、将棋の棋士たちを精力的に取材する藤島淳氏が一冊の書籍を著した。タイトルは『木村一基 折れない心の育て方 一流棋士に学ぶ行動指針35』(講談社)。ここでは同書の一部を抜粋。私たちの日常にも活きる木村九段の行動指針を紹介する。(全2回中の2回目/前編を読む)

※文中の段位や呼称は、執筆当時のものです。

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結局、ギリギリの場面でどう踏ん張れるかが試される

 将棋は技術のゲームだ。どんな達人が秘術を尽くしても、負けから逃れられない局面が続くこともある。どこで投了するかを考えながら、それでも有効な手を探し続ける。粘るだけの手だってある。同業者から見たら恥ずかしい手だろう。それでも折れない。

 プロ同士の戦いは紙一重で勝敗が決まる。逆転はつきものだ。だから頑張る。有名な羽生マジックだけではなく、劣勢でもトッププロは秘術を尽くす。若き天才、藤井二冠にしても、一手相手が緩んだら容赦しないという手を探し続けて逆転に持ち込む。

 負けと知りつつ、目を覆うような手を指して頑張ることは結構辛く、抵抗がある。

 でも、その気持ちをなくしてしまったら、きっと坂道を転げ落ちるかのように、転落していくんだろう。

 木村九段の一番有名な言葉かもしれない。専門誌である『将棋世界』に自ら書き記した言葉だ。

©文藝春秋

 逆転を願いつつも、自分の精神を鼓舞している。どこまで将棋にしがみついて、粘り切ることが出来るのか? 自らに課し続けている言葉に思える。勝負として刀は折れても、気持ちは折れてたまるか、という執念を感じる。

 棋士の序列を決めるのは順位戦だ。かつてA級に君臨していた棋士がいつの間にか、C級に落ちている。苦労して上がっても落ちるのは一瞬だ。若さの勢いで上がっても、歳のせいを言い訳に使い始めたら、あっという間に順位は下がる。怖いのは、それを仕方がないと受け止めてしまう心を感じた時ではないのか。逆に言えば、逆境でも踏ん張り続ける精神力を持っていれば、坂道を転げ落ちることはない。