結果、スキを突かれて負かされる。
動いた方が負け、という局面こそ、究極の知力と精神力が試される。体力だって要るだろう。ベテラン棋士が乗り越えなければいけない最大の壁のようだ。
我慢、辛抱の時期は必ず訪れる。
覚悟を決めて向き合ってみると、
100%希望がないわけではないことに気がつく。
期待を持って臨めば、辛抱の一手が未来の一手になっていたりする。
負けるにしても簡単には負けない
木村九段は、羽生九段に声をかけられ長年研究会を共にしている。実力を認められている証なのだが、タイトル戦では4度戦い、4度とも敗れている。そのうち3度は、最終局にまでもつれ込んだ末の惜敗だった。越えなければいけない最後の壁が羽生九段なのだ。
事実、王位を獲得した時は、挑戦者決定戦で羽生九段を下していた。
「羽生さんは、最後まで何かを狙っている感じなんです。こちらが勝っていると思っていても、諦めているのが最後まで感じられないんです」
羽生マジックと言われる数々の大逆転劇は、羽生九段のその姿勢が生み出すと、対戦相手である木村九段は感じている。ならば、棋士はみなそう出来るのか?
やはり、どうやっても負け、どうやっても負け、というのを繰り返す中では、分かってはいるけれど、やることは難しい。
つねに、一手間違えたら許さないよ、という緊迫感を羽生九段は醸し出しているらしい。それは盤を挟んで向かい合っている対戦相手にしか感じられないそうだ。棋譜にも表れない。正しい手を指していてもこれで良いんだろうかと疑心暗鬼になり、一手間違えたら動揺して、さらに次の手が危うくなる。