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将棋AIよりも大切なのは“執念”ともいえる“個人的な熱い想い” 木村一基九段が持ち続けた「折れない心」の源に迫る

将棋AIよりも大切なのは“執念”ともいえる“個人的な熱い想い” 木村一基九段が持ち続けた「折れない心」の源に迫る

『木村一基 折れない心の育て方 一流棋士に学ぶ行動指針35』より #2

2021/10/23
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AIデータを駆使すればすべてのことが解決する?

「いい歳をしてみっともない」、は誰が決めるのか? 周りが言うより先に、本人が決めているのではないか?

 データの時代と言われる。将棋で言えばAIだ。データを駆使すれば、すべてのことが解決できるかのように言われる。しかし、私の実感で言えば、何かを成就させるのは、データではなく、執念ともいえる個人的な熱い想いだ。その執念の背景に、経験とスキルがあればさらに強力になる。

 日常の中で、執念を見せる場面はあまり訪れない。むしろ、歯をむき出して頑張る姿を見せることは恥ずかしい。何を言われるか分からない。しかし、心が折れるよりもずっと良いとも思える。

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 苦しい時は奥歯を噛みしめる。木村九段の奥歯はかなりボロボロの状態らしい。それだけ、必死に己をかけて戦っている。クールにスマートにポーカーフェイスで戦うけれど負ける棋士よりも、頭を抱え、真っ赤な顔をしながらも勝ちに行く棋士であることを貫いている。

 百回に一回でも、これで逆転出来るのだと思えるか。

 どうせ百回に一回しか、逆転出来ないと思うか。

 こう思って不利な局面で指し手を進めるには、相応の精神力が要る。我慢、辛抱はつらい。それを支える気力が要る。

 敗れはしたが、藤井挑戦者を迎えての王位戦第3局で、6二銀という手を打った。

©文藝春秋

「もう、土下座してしまうような手なのですよ。辛抱の塊のような手。そんな屈辱的な手は、ほんとうにやりたくないんです。ところが、いっとき逆転したか、まで行くんですね」

 負けはしたけれど、そういった手が指せるうちは調子は悪くないのだと語る。

 我慢する、辛抱する手というのはベテラン棋士ほど得意なのかと思っていたが、実は、逆なのだそうだ。歳を重ねるほど、辛抱の手を指せなくなり、攻めに打って出てしまう。