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 では、改めて《汚染/洗浄系》の特徴について、次いで入院治療について、解説していきましょう。

《汚染/洗浄系》への様々な入り口

 汚染に関する不安の入り口には、様々なパターンがあります。分かりやすいのは、テレビやネット等の情報媒体から不安の種を植え付けられてしまうパターンです。細菌やウイルスの危険性に関する情報に触れたことで強い不安を感じ、さらにその不安を解消するためにネットで検索を繰り返すことで、かえって怖さが強まってしまう。2020年に発生したコロナ禍でも、そのような体験が増えてしまい、強迫症の発症に至った方が少なくないと考えられています。

 他に多いのは幼少期に受けた虐待やいじめに起因するトラウマ・ベースです。たとえば学校でいじめを受けた結果、その嫌な記憶がいつの間にか「学校に関連するもの(教科書や文房具など)や空間(勉強部屋、制服をしまっていたタンスなど)は汚い」という認識へとすり替わってしまう場合。こういった嫌な記憶(トラウマ)がベースとなって《汚染/洗浄系》へ至る例は珍しくありません。不吉なものや、いわゆる「穢れ」にも同じことが言えます。「穢れ」を洗い流すための「聖水」の概念が古今東西にあることと無関係ではないでしょう。

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 他には、もともとは汚染に関する具体的な不安を持ち合わせていないにもかかわらず、洗浄の繰り返しに至るパターンもあります。たとえば洗ったときのスッキリした感覚(主に触覚)を追求するタイプ、つまり《ピッタリ系》の症状です。水のかかり方、ハンドソープの泡の量、その触り心地など、感覚の完璧さへのこだわりの結果、手洗いが長時間化するのです。この場合でも、症状の悪化に伴い、後から汚染に関する観念が定着するケースも少なくありません。

『逃げない』を重視する

 治療の戦略は基本的には変わらず、やはり鉄則『逃げない・繰り返さない・巻き込まない+ググらない』をいかに順守できるかがCBT成功のカギを握ります。ただし、特に《汚染/洗浄系》の患者が重視すべきことがあります。それは『逃げない』ことです。というのも、このタイプの人は、汚染を感じる対象や状況からの回避行動、つまり「逃げる」ことが目立つからです。

「逃げる」理由には、強迫行為を直ちに行うことの難しさが挙げられます。この場合の強迫行為とは大抵の場合は手洗いですが、その場所がかなり限定されるのです。そもそも手を洗える場所自体は、自宅を除けば、店や駅のトイレくらいしかありません。その上安心して手洗いに専念できる場所となると、もっと限られます。たとえば駅のトイレは意外と使い勝手が悪く、ひっきりなしに色々な人が出入りすることで、集中が容易に妨げられてしまいます。これでは安心して納得のいく理想的な手洗いが難しいのです。となれば、外出中に汚いものに触るわけにはいかず、「逃げる」が勝ちという誤った発想になりがちです。現に「外のトイレは絶対に使わない」という前提でしか外出できない患者は少なくなく、その場合は必然的に外出の時間が3時間程度に限定されてしまいます。