回避の対象としては、血液を連想させる「赤いもの」は分かりやすいと思います。それ以外では「白いもの」を避ける例もしばしば見られます。精液を連想させるからです。あるいは感染症を連想させるような、特定の属性を持つ(と本人が見做す)人間を避ける場合もよくあります。他にも、他人の唾、排泄物、鳥のフンなど様々です。
こういった回避行動に対しては『繰り返さない』の優先度を下げてでも、まずは『逃げない』を徹底することが重要となります。言い換えると、回避をするくらいなら強迫行為をする方がまだマシである、ということです。
コツは、社会的に受け入れられる形で簡略化すること
この考え方は治療戦略上、極めて重要です。回避を行うことは、自分が行動できる空間を狭めることと同義ですから、これはかなりまずい。CBTのやりようがない上に、生活への支障も加速します。治療を進めるためには、何よりも行動空間の拡大を目指すことが先決です。先に『逃げない』を徹底し、その中で「繰り返す」から『繰り返さない』へのシフトを狙っていく。たとえば手洗いを行えない状況であっても、代用の手段としてウェットティッシュを用いる。最初は何度も拭いてしまうとしても、少しずつ『繰り返さない』に注力していけば問題ありません。こういった代用のコツは、社会的に受け入れられる形で簡略化することです。
なお、先の春子さんの例でも記しましたが、回避が「薬物の拒否」という形で現れるとなお厄介です。服薬を回避するうちは症状が良くならず、そのうちに強迫が悪化し、ますます薬が怖くなるという皮肉めいた状況に陥りやすいからです。実際、《汚染/洗浄系》の患者は身体の健康状態へのこだわりを持ちやすいため、薬物に対しても忌避感を抱きやすい傾向にあります。自分のあずかり知らぬところで身体に作用を及ぼす薬物は、そのような不安を生みだす筆頭の存在ですから。
そうは言っても、薬を拒否し続ければ強迫の術中にハマります。こちらは防戦一方で、勝ち筋が見えません。何としても薬という援軍を呼び込み、強迫の勢いを弱めたい。そうして冷静さを回復し、反撃の糸口を作りたいところです。おそらくこれが強迫治療の最初の壁となるでしょう。主治医ともしっかり話し合い、薬の安全性や重要性を十分に理解した上で、是非乗り越えてもらいたいところです。
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