何かが意識に強く迫り、思考を支配し、不合理な行動に駆り立てる。そうした「強迫症」は正常な心理と地続きなもので、健康的な精神の中にも「強迫の芽」は存在する。欧州のデータを参照すると、人口における有病率は概ね1~2%。つまり、50~100人に1人は発症する病気だと推定されている。

 精神科医の亀井士郎氏は、自身が強迫症に悩まされた経験をもとに、治療担当医の松永寿人氏とともに『強迫症を治す 不安とこだわりからの解放』(幻冬舎新書)を執筆した。ここでは同書の一部を抜粋。納得するかたちで“ピッタリ”していないものに対して、気持ち悪さや落ち着かなさを感じ、強い衝動に駆り立てられるという症状に悩む少年の事例を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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症例――夏樹くん中学1年生

 夏樹くんが筆者(松永)の外来に初めて訪れたのは、彼が中学1年生のときでした。夏樹くんは典型的な《ピッタリ系》の強迫症状を示していて、いわゆる「強迫性緩慢(編集部注:納得感が得られるまで、強迫行為を繰り返し、一つ一つの動作に時間がかかるために、なかなか次の動作に移れない症状)」によって生活全般に支障を来していました。

 夏樹くんは3人兄弟の次男です。両親と祖父と共に6人家族で育ちました。生来、几帳面で思慮深く、おとなしい性格です。幼稚園の頃に運動チックの症状が、また小学校に入ってすぐの頃に吃音の症状がありましたが、いずれも一過性で消失しました。その他には発達上の問題は特に認められていません。

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 夏樹くんが小学4年生のとき、同級生にからかわれたことをきっかけに、大げんかに発展したことがありました。症状が初めて現れたのはその頃です。「おもちゃ(レゴ)を箱にしまうとき、しっかり片付けた感じがなかなか感じられず、何度も片付け直す」という行動を認めるようになりました。夏樹くんはこのことを苦痛に感じ、次第にレゴに手を触れないようになりました。

学校自体が苦痛になったため、不登校気味に

 小学5年生の頃には「携帯ゲーム機をケースに収めるときに、きっちり感を感じないと落ち着かない。指の添え方にもこだわって何度もしまい直す」という症状や、「黒板の板書を書き写すとき、ノートの枡目にピッタリ収まっていないとちゃんと書けた気がせず、何度も書き直す。板書の速度についていけず、結局ノートが取れない」、あるいは「教科書を読もうとしても、字の形が気になって何度も止まってしまい、先に進めない」といった症状が出現し、たいへん困るようになりました。

 小学6年生の終わり頃には「友人は表面的には仲良くしてくれているが、陰で悪く思われているのではないか不安になり、友人の話す言葉の一つ一つの意味を何度も繰り返し尋ねる」という症状が出現しました。そのため友人との関わり自体を避け始め、学校自体が苦痛になったため、不登校気味になりました。