約2カ月後には通常の登校が可能に
中学校の先生にも病状を説明し、理解と協力をお願いした上で、通学を再開しました。学校生活でも、「板書を写す際は消しゴムを使わずにとりあえず書いてみる」「友達との会話中に言葉の意味が気になっても、訊き直さず会話を続ける」というCBTを進めていきました。
通学を再開した当初は、学校での疲労度を考慮し、翌日は休むという取り決めで週に3日ペースの登校を目標としました。幸いにも治療は順調に進み、夏樹くん自身の希望もあって徐々に登校のペースを上げ、約2カ月後には通常の登校が可能となりました。
自宅でも学校でも概ね問題なく過ごせるようになり、読み書きを含め、学習上の支障もほとんど無くなりました。夏樹くん自ら「気持ち悪くても行動を止めない」といったCBTの意識付けを積極的に行っており、現在は3カ月に1回程度の通院で、服薬もごく少量となっています。
《ピッタリ系》は、若年発症の傾向があります。このケースでは小学生で発症しており、経過も含めて典型的と言えます。「読み書き」に関する強迫症状もしばしば認められますが、見ていただいたとおり、特に勉学面に大きな影響を及ぼすため、今後の人生を左右しかねません。夏樹くんの場合、学校に早く復帰したいという強いモチベーションがCBTの推進力となり、幸い治療を順調に進めることができました。
なお、夏樹くんは親をほとんど症状に巻き込んでいませんが、これは子供のケースとしてはやや例外的です。子供の例はこの次にもう一つ取り上げますので、そこで改めて子供の特徴について詳しく解説します(編集部注:書籍『強迫症を治す 不安とこだわりからの解放』内で紹介)。ここでは《ピッタリ系》について解説しましょう。
《ピッタリ系》の特徴
《ピッタリ系》は感覚重視のタイプです。聴覚や視覚、触覚などの感覚に関わる「不全感」や「気持ちの悪さ」に駆動される衝動(前駆衝動)により、“まさにピッタリ感”と称される感覚や納得感が得られるまで、強迫行為を繰り返します。一つ一つの動作に時間がかかるために、なかなか次の動作に移れない――このタイプによく認められる現象ですが、これを特に「強迫性緩慢」と呼ぶのでした。
このタイプは、強迫観念の介在が目立たないこと・遺伝的な要素が比較的強いこと・若年発症の傾向があること・チック症と合併しやすいこと、などを特徴とします。《ピッタリ系》を他のタイプと見分けることには、治療者にとって意義があります。薬物の選択の参考になるからです。一般に、抗精神病薬を(抗うつ薬に加えて)投与することが有効とされます。