適切な薬物を選択できるかどうかも治療のカギ
さて、《ピッタリ系》は他のタイプと比較して、「自我親和性」の傾向が強いとされます。自我親和性というのは、その名のとおり、症状が自我に親和しているという性質を意味する言葉です。つまり、《ピッタリ系》の患者は、強迫行為自体には比較的不合理感を持たず、「やりたくてやっていること」と捉えがちということ。このことは《ピッタリ系》が完璧主義的な性格の延長線上に出現しやすいことにも起因しています。
ということは、強迫行為それ自体にはさほど困っていないことが多いと言えます。しかし、結果的には大いに困ります。たとえばノートの字にこだわること自体に困っていなくとも、黒板の字を時間内に書き写せなければ授業についていけません。要は過程に支障を感じなくとも、結果には支障を来している。これが《ピッタリ系》でしばしば認められる、生活機能面での障害です。
この自我親和性という特徴はCBTを進める上で厄介です。強迫症状を敵視しにくくさせるからです。すると行動を修正するモチベーションも低くなりがちで、「不全感」や「気持ち悪さ」といった感覚になかなか耐えられません。この点を考慮すると、薬物の重要性が比較的高いと考えられます。したがって適切な薬物を選択できるかどうかも治療のカギを握ることになります。
《ピッタリ系》のCBTのコツ
一般的には《ピッタリ系》は暴露反応妨害法(ERP)の対象外とされています。なぜなら、暴露すべき不安たる強迫観念が存在しないから、と言われています。しかしながら、「落ち着かない感じ」という点では「不安」も「不全感」も「気持ちの悪 さ」も同じことです。結局、これらの「落ち着かない感じ」に晒されつつも、それを解消する行動(強迫行為)を実行しない、という点が重要なのです。
ですから、《ピッタリ系》のCBTでも戦略はほぼ変わりません。鉄則も同じです。『逃げない・繰り返さない・巻き込まない+ググらない』を適用するならば、実際の行動としては「気持ち悪さを感じても同じ行動を繰り返さずに、さっさと次の行動に移れ」が正解になります。たとえ文章を読むときに“しっくり感”を得られなくても、とにかく最後まで読み通す。書くときに自分の字に納得がいかなくても消しゴムを使わず、とりあえず最後まで書き通す。