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わざとゆっくり動作を行い、自制の感覚を回復する

 特に「強迫性緩慢」に手こずる場合は、「ペーシング」と「プロンプティング」が役に立ちます。自分がどの動作にどのくらいの時間をかけているのか、症状を分析した上で、時間の枠組みを設定する。決めた時間を順守し、強迫行為を切っていく(ペーシング)。他者からの声かけ等の協力も得る(プロンプティング)。それにより「強迫性緩慢」によって動けなくなっている状態を打破します。必然的に「気持ち悪さ」に耐えることになりますが、それが結果的に治療効果を生むわけです。無論、次第にその「気持ち悪さ」の強さはCBTを重ねるごとに減っていき、正常な行動習慣に適応できるようになります。この点は不安の減衰のメカニズムと何ら変わりません。

 また「気持ち悪さ」をやり過ごす手段として、ときにリラクゼーションが有効となります。つまり、全身の力を緩め、大きな深呼吸を数回繰り返してみる。一見単純な技法ですが、最近は衝動コントロールの手段としても注目されており、意外と侮れません。その他、強迫行為に夢中になって自分を見失った状態(つまり「強迫性緩慢」の最中)では、「マインドフルネス」という技法が活用できます。これもCBTの技法の一つで、冷静に自分の状態を、リアルタイムに観察・認識し、運動動作や身体感覚に注意を向けながら、わざとゆっくり動作を行い、自制の感覚を回復する、という方法です。

発症当初の症状を知っておくことは治療的には大事

 なお、この《ピッタリ系》は、発症当初は純粋にピッタリ感を追求するだけの症状であっても、後付けで不安を伴い、結果的に他のタイプの強迫観念が混ざってくることも珍しくありません。《汚染/洗浄系》との合併については先に述べたとおりです。他にも魔術的思考と呼ばれるような、不吉への恐れが伴うパターンもあります。たとえば、「茶碗をしまう際、柄をきちんと少しも傾くことなく揃えておかなければ、家族の誰かが事故に遭ってしまう」といった症状です。さらには、ピッタリの追求が、正確さの追求に移行し、「それが間違っていないか何度も確認する」という《確認系》と変わらない症状に変化する場合もあります。このような場合、もともとの下地である《ピッタリ系》の症状が埋もれることがありますが、それでも先述の薬物の有効性は変わりません。ですので、発症当初の症状を知っておくことは治療的には大事なのです。

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