もしも恐竜が絶滅しておらず、どこかに生き残りがいたら――。そんな「IF」の世界を描いたコミックが『ディノサン』(木下いたる著、新潮社)だ。主人公は「恐竜園」で飼育員を務めている。

 もちろん生きている恐竜の姿を見たことがある人類はいないが、本作では恐竜の「生態」をなるべくリアルに描こうとしている。その監修を行っているのが、恐竜など絶滅した動物の姿や動作を研究している古脊椎動物学者の藤原慎一氏(名古屋大学博物館講師)だ。

 化石などからどうやって生態を解き明かしていくのか。そして、恐竜のポーズに秘められた事実とは……。恐竜研究者へのインタビューを数多く手がけている安田峰俊氏が話を聞いた。

ADVERTISEMENT

古脊椎動物を研究している名古屋大学博物館講師の藤原慎一さん

専門家の立場で恐竜の骨の形や輪郭、動作を監修

――まず『ディノサン』監修を担当された経緯からお願いいたします。

藤原 私の師匠の真鍋真先生(国立科学博物館副館長)からお話をいただいたんです。先生の教え子のなかで私が一番、恐竜の動作の復元なんかをやっているのと、私自身絵を描くのが結構好きなので、そういうところからお話があったのかなと思っています。

――『ディノサン』第1話・第2話ですと、具体的にどういう部分について監修をおこなわれましたか。

藤原 まずは骨の形とか輪郭。たとえば第1話に登場するギガノトサウルスは、下顎の先端の尖り方が特徴的でややしゃくれていたりします。あと、私が一番助言できるのは、恐竜の動作についてですね。立っているときに「このポーズだったらどこの筋肉をムキっとさせましょう」「身体の重心をもうすこしこっちに持っていくほうがリアリティがあります」とか。そういう部分を気にして恐竜の姿を復元する人が、あまりいないんです。

――作中で興味深いのが、恐竜のしゃがみかたの描写です。たとえばギガノトサウルスやアロサウルスのような大型の獣脚類が独特のポーズで座っている。これまでの映画などですと、大型獣脚類の休憩は、上半身を地面につけて腹ばいになっているような格好が多かった気がしますが。

『ディノサン』1巻より ©Itaru Kinoshita/shinchosha

藤原 腹ばいみたいなポーズをすると、呼吸が苦しくなって肋骨が折れるリスクが高くなる。身体の構造からして無理なはずなんです。実際は『ディノサン』作中のように、恥骨の部分をイスのようにして、そこに体重をあずけて座っていることの方が多かったと思います。これは化石からも裏付けられていて、カカトから先をペタッと地面につけた「しゃがんだ姿勢」の痕跡が残った足跡化石には、両足の間に恥骨の跡が残っていたりします。