――恐竜図鑑やBBCの恐竜ドキュメンタリーに出てくるポーズでも、肋骨をはじめとした骨への負担や、筋肉のつきかたを考えると不自然なケースはありそうです。
藤原 恐竜の絵やCGというのは、骨格をしっかりなぞって描けば、本来は誰でも正確に書ける……はずなのですが、それがおこなわれない例は意外とたくさんあります。特に大きな問題は、多くの復元に「肋骨への愛」がないことです。
――肋骨は愛の対象だった。
藤原 そうですよ(笑)。肋骨は胴体の輪郭を作る。しかし、愛のない人が復元すると、肋骨はみんな同じ形だと勝手に想像して、胴体を前の方からまん丸く作ったりする。しかし、そうじゃないんです。実際の動物を背中から見ると、ゾウは美しいナスビのような形をしているし、ヤギであれば肩のあたりがすごくキュッとなっていて、お腹はポッと膨らんでいて……と、それぞれ特有の形がある。またその形にはそれぞれ意味がある。しかし、それが無視されることが多いんです。
「骨格愛」「筋肉愛」のきっかけは『キン肉マン』と相撲
――普通、恐竜学者は化石や地質への関心が強い方が多いイメージですが、お話をうかがっていますと、先生は血の通った生き物の肉体への関心が強いタイプのように感じます。
藤原 その通りです。私の場合、化石をばんばん見つけていくのはあまり得意ではないいっぽう、生物学的なアプローチをおこなっています。近年は日本でも恐竜研究の裾野が広がって、こうした角度からの研究もできるようになってきました。他にも発生学的な部分からアプローチする研究者ですとか、さまざまな角度から恐竜をとらえる動きが広がっています。
――特に藤原先生の場合は「骨格愛」や「筋肉愛」を強く感じます。どういうきっかけがあったのでしょう?
藤原 もともと『キン肉マン』が大好きで、ウェブでファンページまで開設していたくらいなんです。もう閉じてしまいましたが。あと、相撲を見るのも好きでしたね。昔の相撲だと、吊り技が得意な力士は僧帽筋が発達し、突き技が得意な力士は三角筋や上腕三頭筋が発達する。そういう体型の違いと得意技の関係というのもおもしろい。ボディビル的な「見せる筋肉」もいいのですが、テニス選手の腕みたいに、ある動作を理由に発達した筋肉のほうが興味ありますね。