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恐竜研究者が熱弁、リアルな復元に必要なのは「肋骨への愛」だ!

恐竜研究者が熱弁、リアルな復元に必要なのは「肋骨への愛」だ!

古脊椎動物学者・藤原慎一氏に聞く

2021/10/04

「1つでも無理なところが生じたら、動物にはできない動きなんです」

――なるほど。ほかに恐竜関連のフィクションといえば、現在の大人世代にとっていちばん馴染み深いのはアニメ映画『ドラえもん のび太の恐竜』でしょう。作中ではフタバサウルス(正確には恐竜ではなく首長竜)のピー助がまだ幼体のときに、のび太が投げたバレーボールを、長い首でポンと打ち返すシーンがありますが、あれは可能なんでしょうか?

藤原 そもそもピー助は陸上で運動できたのでしょうか。検証してみないとですね……。あと、フタバサウルスみたいなプレシオサウルス類の仲間は、どれほど頸の可動性が高かったか、それについても検証しないといけません。ピー助とバレーボールをすると、横からの衝撃でポキっと頸椎脱臼を起こさないかが心配です。

――首長竜を飼うときは気をつけないと。しかしピー助はともかく、ティラノサウルスの猛ダッシュくらいは、本人(?)がすごく気をつけて頑張ればできなくもないのではありませんか?

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藤原 仮に「○○の筋肉だけ」を局所的にみて、そういう動きが可能だという推論ができたとしても、体全体のバランスで考えると無理ということは多い。1つでも無理なところが生じたら、そこはもう、動物にはできない動きなんです。

――なるほど……。

藤原 たとえば、鳥盤類の恐竜には、いちど2足歩行になったのに進化の過程で再び4足歩行に戻った仲間が多くいます。それこそトリケラトプスのケラトプス類の系統もそうですね。いっぽう、獣脚類の大部分は2足歩行から再び4足歩行には戻らなかった。その理由は肋骨が関係しているとみていますが……その理由がどこにあるのかを、いま研究中です。胴体の骨格が十分な強度を持っていないと、前あしで体重を支えることができません。もし、胴体の骨の強度に違いが見られるなら、獣脚類と鳥盤類で違った進化をしていった要因も説明がつくと考えています。

肋骨にはそれぞれ特有の形があり、意味がある

――大型の獣脚類は腹ばいポーズができなかった、という、恐竜の座りかたについての冒頭の話にもつながってきますね。

藤原 はい。たとえば、ティラノサウルスの「腕」は数百キロのものを持ち上げることができたという研究もあります。しかし、それならばティラノサウルスは四つん這いのポーズができたか? それは難しいと思います。なぜなら、「腕」という局所的な部位では可能だったとしても、胴体の骨格がもたなければ、それは不可能です。すなわち「体全体のバランスで考えると無理」ということになるわけです。