突如アスリートを襲い、選手生命を脅かす魔病とされてきた「イップス」は、長年、心の病の印象が強かった。しかし、近年の研究では、その原因はメンタルではなく脳にあることが明らかになっている。
ノンフィクション作家の澤宮優氏は、そうしたイップス症状に悩まされるアスリートたちへの取材を実施。さらに、アスリートを支えた指導者や医師からの証言をまとめ、イップスの原因解明と治療法にまで踏み込んだ『イップス 魔病を乗り越えたアスリートたち』(角川新書)を執筆した。ここでは同書の一部を抜粋し、プロゴルファー横田真一氏のイップスに対する考えを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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復活をかけたキヤノンオープン
平成19(2007)年、シード権を失った横田は、日本ゴルフツアー機構主催の2部トーナメントであるJGTOチャレンジトーナメントに出場した。シード権を持たない選手を対象とした2部のツアーである。プロ野球で言えば2軍戦であろうか。6月22日にはチャレンジトーナメントで早くも2勝目を飾った。これまでは長尺パターを使っていた。
「長尺パターを使うことは、もう以前の自分のショットとは別物なので。同じゴルフでも別の種目をやっているようなものですよ」
横田はそう言った。3回目の優勝がかかったときに、試しに短いパターに変えたら、イップスの症状が出てしまった。症状が出ることを、横田は「こんにちは」とも表現する。「こんにちは」をしたら、次のホールからイップスは出続けるのだという。
「やっぱり優勝争いになるとイップスが出ますね。長尺に変えて克服と言えばそうだけど、以前の本来の打ち方は100パーセント無理です。今もできません」
だがこの年、チャレンジツアーでは賞金ランキング4位になり、翌年前半のシード権を取り戻した。
小林が助言したように、副交感神経を高める訓練を欠かさなかった。ゴルフ場で大きく息を吐く。ゆっくり歩く。息子や娘の写真を見る。そんな工夫をした。
「もしその選手が海辺の出身だったら、海の香りを思い出すとかありますね。自分にイップスの経験がなければ、こういうことに目を向けなかったと思います。イップスが向けさせてくれたと思います」
そういえば、欧米人はプレッシャーに強いと言われるが、彼らは信仰心を持っているので「オー・マイ・ゴッド」と最後は神に委ねることができる。結果は、よくも悪くも神様のお導きであると信じることで、自分を追い込まず、開き直ることもできる。