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すばらしく美味い野営での食事

 食糧探しの隊はノウサギだのヤマドリだのを射って戻ってくる。炊事の上手なマタギがたちまち料理して1時間もたたないうちに汁になる。雪洞の中には囲炉裏がきられる。雪の床に穴を掘って、生木の丸太を並べ、その上にブリキ板などを敷き、燠をざっと入れる。不自由ではあるが、こうした野営での食事はすばらしく美味い。昔と違って鍋にはウサギの胎児を入れたりはしないし、満腹すれば食べ残しても文句はいわれない。

帰宅してから獲物の肉を一同で食べる沖揚がり料理。舌鼓を打ち猟談に花が咲く

 食事のあとの燠を囲んでの炉辺談話がまた面白く、愉しい。昔のマタギのこと、野生の動物の話、山の怪異談、失敗談、さてはぐんと落ちて猥談の花も咲くし、アルコールが入れば秋田民謡もとび出す。昔だったらすぐにサンダラゴリ(水垢離、雪垢離)をとらされるところだ。

 木の細枝を雪の上に敷き、常緑樹の葉をさらに重ねてベッドができ上がると、あとは夢を結ぶばかりだ。トランジスターラジオが、明日の天気を告げてくれる……。

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別の職業を得ることになったマタギ

 私は仙北マタギであるこれらの人々と三たび朝日、白岩連峰に登った。彼らはいずれも以前ならマタギだけで十分に生活してゆけた人たちだが、社会の発達がそれを許さない。だからこの人たちも阿仁(あに)マタギ同様それぞれ職業を持たねばならなかった。それがなんだか悲しい。

 名人サン公さんは農業で、奥さんが理髪店をやっている。やはりシカリ級の万六爺さんも農業だ。伍郎さんは天理教の布教師である。歌のうまい宇佐美さんも農業、名勢子長のタカシュウは山林で働いている。孫一ちゃんは魚屋さん、髭口君は製炭業、ジデンは自転車屋さん、マタギ学校の校長と自称するカネデンさんは土建業、高瀬の兄つぁんといわれる高橋さんは錦ゴイの研究家で、自らはザッコ(雑魚)屋だといっている。明大出のインテリマタギでラグビー選手だっただけに馬力がある。しかし、それも20数年前の話だ。高橋さんが亡くなったように他にも故人となった人がいるかもしれない。

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ヤマケイ文庫 マタギ 日本の伝統狩人探訪記

戸川 幸夫

山と溪谷社

2021年9月18日 発売

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