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「ガンプラを仕入れに行くぞ!」で“軽自動車1台分”の金額を投資…「自動車ディーラー兼プラモデル屋」が山形で花開いている話

2021/10/09
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 自動車販売店がガンプラを扱っているという話がマニアの間でも評判になり、少しずつガンプラ好きのお客さんが増えていった。手応えを感じた金野さんは、市内で夏祭りやクリスマスのイベントがあればブースを出店し、子供たち向けのガンプラ制作体験教室を実施した。このイベントがさらにSNSで話題を呼び、遠くは秋田県、宮城県からもお客さんが足を運んでくれるようになった。

 ガンプラを買いに来たお客さんは、当然、ガンプラ好きの従業員たちと話が盛り上がり、すぐに仲良くなった。自分のクルマの整備をお願いしたり、クルマを乗り換えるときに相談をしてくれたり、いつの間にかガンプラ好きのお客さんが集う自動車販売店になった。

空いた棚のスペースにはお客様が「展示して欲しい」と自分で制作したガンプラを持ち込んでくるという (写真提供:アローズ)

コロナ禍でもつながった人の輪

 コロナ禍の2020年5月に始めた個人向けのカーリース事業「フラット7」は、1年も経たずに契約数が70件を超えるほどの盛況となった。本来、支払い方法が複雑なカーリースは、客との信頼関係ができていなければ売り込むことが難しい。しかし、ガンプラを通じて顧客との関係性を築いてきたことで、その心理的ハードルをいとも簡単に乗り越えることができた。

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「ガンプラ好きにクルマ好きが多かったというのが、今回の嬉しい誤算のひとつでした。考えてみれば、クルマ好きの従業員を集めた会社だったから、その従業員たちが喜ぶことをやれば、クルマ好きのお客様に喜んでもらえるのは当たり前ですよね」

 V字回復の要因を金野社長は振り返る。

 コロナの収束が少しずつ見え始めているが、世の中の混乱はまだまだ続きそうである。業種によっては客がすぐに戻ってこないお店もあるし、思うように商品が売れないお店もあるはずだ。巣ごもり消費を過ごした客たちを、コロナ禍前の戦略とマーケティングで取り戻すことは難しいと言える。

 しかし、今回のアローズ山形庄内中央店のように、従業員の「顧客満足度」に焦点を置けば、売上回復の糸口が見えてくるかもしれない。小さい会社やお店は、従業員と客との距離が近いので、趣味や嗜好が重なりやすい。従業員満足度のES(Employee Satisfaction)を上げれば、顧客満足度のCS(Customer Satisfaction)も上がりやすくなる。従業員が喜ぶことをやれば、お客様に喜んでもらえるサービスにつながる確率は高いといえる。

 自動車販売店がガンプラという金脈を見つけたように、従業員に喜んでもらえる販促に力を入れれば、コロナ禍を脱出できる売上回復のヒントが見つかるかも知れない。

逆境を活かす店 消える店

竹内 謙礼

日本経済新聞出版

2021年9月14日 発売

「ガンプラを仕入れに行くぞ!」で“軽自動車1台分”の金額を投資…「自動車ディーラー兼プラモデル屋」が山形で花開いている話

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