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――伊藤三段は当時28歳で、後に30歳で四段昇段した苦労人です。先輩とはいえ、昇段を逃がした三段との距離感は難しそうですが。

近藤 人それぞれかな。僕は声をかけられやすかったけど、怖い人に変なことをいったら恨まれるかもしれない。

――1期目で昇段争いに絡んだら、自信にはなったんじゃないですか。

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近藤 うーん。そのあと勝ち越していても(13期中、負け越しは2回のみ)、上がる気配がなかった。僕は好成績が2期続かないから、順位が生きないんだ。

生きていくために横浜の将棋道場でバイトをしていた

――三段リーグは長くなるとわからなくなっていくと聞きます。若いうちは「ちゃんと勉強していけば、そのうち自分が昇段する番がくる」と思っていても、同世代や年下に抜かれて、どんどん焦ってくると。

近藤 そうそう、そうなんですよ。いまも同じなんだろうね。何期も三段リーグにいるとよれてくるし、焦りも出てくる。

――当時はどういう生活を送っていましたか。

近藤 必死にはやっていたと思うんだけど、将棋にすべてを打ち込めていたわけじゃない。記録係をやってもお金がないし、生きていくために横浜の将棋道場でバイトをしていたんだ。手合いを組んで(対局の組み合わせを決めること)、灰皿掃除とかお客さんに頼まれてカップラーメンを作る仕事。

 当時は新横浜駅に近いボロアパートに住んでいて、新幹線が通るたびに揺れるから、揺れ方で新幹線の種類がわかるようになった。余計なものを買うお金がないから、電話とラジオがあったぐらいかな。テレビ、冷蔵庫、ガスコンロ、洗濯機はない。ガスで沸かした風呂の残り湯で洗濯物を手で洗ってましたけど、お湯が出なかったので冬に水を使うと凍えましたね。家で将棋以外にすることといえば、布団にくるまって沢木耕太郎とか松本清張を読むぐらいですよ。

そういう星の下に生まれちゃっているんだよなぁ

――2回目の頭ハネは、第16回(1994年後期)でした。このときは劇的で、勝又清和三段(現七段)と同じ13勝5敗ながら、順位が勝又3位、近藤4位のため、勝又昇段でした。この1枚差がどこでついたかというと、前々期(第14回三段リーグ)勝又-近藤戦です。勝又勝ちで9勝9敗、近藤7勝11敗でリーグを終えて、勝又が近藤を抜いて上位になった。次の第15回はともに12勝6敗だったため、やはり勝又上位のまま第16回を迎えたというわけです。つまり、第14回で近藤勝ちなら、第16回は近藤昇段でした。

 この話を勝又七段が知ったのは四段昇段のお祝いの席で、一気に酔いがさめたそうです。昨年に「いまになってコンちゃんにこの話をしたけど、デリケートな話だからいいにくかった」と聞きました。近藤七段は知っていたんですか。

近藤 知ってた。頭ハネされてからすぐに調べたもん。そういう星の下に生まれちゃっているんだよなぁ。結局、みんなで足の引っ張り合いをやっているんだよね。13期いた木村さん(一基九段)は、僕のわけのわからない中飛車に弱かったし。