東京地検特捜部が目下、捜査を進める日本最大のマンモス校、日本大学を巡る背任事件。捜査の手は、最高権力者である田中英寿理事長(74)に及んでおり、すでに特捜部は田中氏の自宅を家宅捜索し、田中本人の任意の事情聴取まで行った。
田中氏は入院直前の事情聴取で次のように検事に語ったという。
「検事さん、私を最初から悪人と決めつけているんでしょう。たしかに見た目も評判もよくないことは分かっていますし、ヤクザみたいなもんです。しかし、私は相撲道に生きる男です。相撲取りがコメに困ることはないんです。だから、口利きのようなことはしませんし、知りません。頼まれてもアゴにする(角界用語で「断る」の意)。検事さんも相撲取りになれば分かります」
「文藝春秋」11月号より「日大『田中帝国』の土俵際」を一部公開する。(全2回の1回目/後編に続く)
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裏社会にまで及ぶ日大のドン・田中理事長の人脈
東京・阿佐ケ谷駅から徒歩2分の場所に、知る人ぞ知る「ちゃんこ料理 たなか」はある。4階建てのビルで店舗は1階と2階、上階は住居となっている。ちゃんことふぐ料理が名物で、店内の仕切り壁の奥にある、掘り炬燵の小上がり席が、予約で埋まる日も少なくない。
ここに東京地検特捜部の係官が踏み込んだのは9月8日午前のことだった。特捜部は、背任容疑の関係先として家宅捜索した。
この家の主は、約7万人の学生数と約118万人の卒業生を誇る、日本最大のマンモス校、日本大学の田中英寿理事長(74)。2008年に理事長に就任して以来、日大のドンとして君臨し、その人脈は政界やスポーツ界、果ては裏社会にまで及ぶ。
この10年近く、国税当局や警視庁には様々な不祥事の告発が大学内部から寄せられては、内偵捜査が進められた。また2018年5月には日大と関西学院大とのアメリカンフットボールの定期戦で悪質タックル問題が起こり、日大の体質が猛批判を浴びたことは記憶に新しい。
しかしながら、捜査当局の内部にまでおよぶ日大のドンの威光はすさまじく捜査は悉く壁にぶつかり、田中氏は側近に「死ぬまで理事長を続ける」と豪語する始末だった。
そんな田中氏の牙城に、今回初めて特捜部が捜査のメスを入れたのだ。
病院の建て替え計画で2億円が不正に流出
検察担当記者が語る。
「特捜部は日大本部と、日大が全額出資し、10年に設立された『株式会社日本大学事業部』にも家宅捜索を行ないました。疑惑の舞台は築50年を経て、建て替えが計画されていた日大医学部附属板橋病院です。予算規模は全体で1000億円とされ、昨年、基本設計のコンペが実施されました。4社のなかから設計会社の『佐藤総合計画』が選ばれ、24億円で契約を締結。日大側は、手始めに、前払金として7億円を佐藤総合計画に支払ったのですが、このうち2億円が不正に流出し、大学に損害を与えたとみられています」
2億円はその後、大阪の医療法人「錦秀会」の籔本雅巳理事長が株主を務める医療コンサル会社に送金されたことが判明。この会社はペーパーカンパニーで、籔本氏の秘書役も担った側近が代表を務めている。