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 ある日はお腹がペコペコでしばらく橋の欄干に佇んでおりました。そこへ、1台の外車がわたしの目の前で停車しました。運転席の窓が開き、

「お寿司食べに行かへんか、心配しなくてええ。2時間ほど前に通った時も、そこにいてたがな。寿司は要らんか。ほなら焼肉にするか。食べさせたるから車に乗り。お腹が空いてるんやろう」

 迷いましたが、焼肉の一言で心が動かされてしまったのです。いざとなれば逃げればいいかと。助手席から運転する男の様子をよく見れば、袖口からは刺青らしきものがのぞき、足元には拳銃のようなものまで。「金魚、やったことあるか」などと聞いてきまして。金魚とは明らかに隠語でした。それが何だか分からなくてもヤバい薬物のように感じました。そうこうするうち、その車は高速道路に乗ったのです。このままでは殺されるかも知れない。身の危険を感じたわたしは、「逃げるなら今しかない」と、乗り継ぎの料金所で速度が落ちた車から飛び降りたのです。料金所の手前でなく、通過した後で。後続の車に轢かれたらどうしようなどと考えていたら怖くて動けませんでした。一か八か転げ落ちている間は目を閉じて、トラックに轢かれないよう祈っていましたが、本当の恐怖は、高速でぶんぶん向かってくる車間を縫って逆走しながら一般道路へ降りることでした。車が途切れたら全速力で走り、ヘッドライトが近づいてきたら道路端の縁石に飛び乗りました。両手を広げ、顔も壁にひっつけて、すごいスピードで車が通り過ぎるのを待ちました。これを出口まで何度か繰り返してなんとか生き延びたのです。

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生島マリカ氏 撮影=中里吉秀

運命を変えたシャンテール内本町1202号室

 気がつけば誕生日を迎えて14歳になっていました。いい加減こんな暮らしに疲れてしまい、スカウトされていた高級クラブ「アクティブ」と契約をすることにしたのです。幼少から男に酌をするなと両親に言い付けられて育っていました。しかし、お金がないばかりに住むところも食べ物もなく、危険な目にも遭うのです。今日を生きるために親の教えを守る余裕はなかった。わたしが未成年だということは有名で、街の人間は皆んな知っていましたが、そのリスクを負っても雇いたかったのでしょう。学校へ行きたい、漫画を読みたい、お腹いっぱい食べたい、と考えることすらなかったです。この時分のわたしには贅沢品でした。それを想像する余裕もありませんでしたし。