問答無用で小型のバスに乗せられました。
鑑別所に到着したら、すぐに持ち物を預けて身体検査がありました。留置所に入れられた経験から、いくぶん動揺は少なかったとはいえ、医務室で男性医師に素裸で身体中の穴という穴を見せるのは自我が強くて自尊心の強いわたしには屈辱でした。
「言ってる意味は分かるよね? 1週間後にまた来るから考えておいて下さい」
入所して3日目あたりに「先生」と呼ばれる法務教官がドアの前で、
「けんじが面会に来たから出なさい」
と告げてきました。
「けんじって誰ですか? 今日は面会日じゃないはずですが」
「検事いうたら検事やんか。検察庁の検事さん。しかしあんた、何をやったの」
「わたしは何もしていません」
1985年のことです。鑑別所にいる女の子たちの大半が売春、覚醒剤、シンナー、窃盗の罪で、面会に警察は来ても検事が来ることは教官にとっても珍しいことのようでした。
「初めまして。僕は大阪地検から君に会いに来た検事正の◯◯といいます。今日ここに僕が来た理由が分かるかな」
「いいえ、分かりません」
「君は伊藤義文さんを知っていますよね。北区兎我野町に会社がある。柿本寺という寺の住職でもある伊藤管長のことだ」
「……はい」
「伊藤という男はだね、脱税という国家にとって反逆とでも呼ぶべき行為で法に背いている。それは刑事さんに聞いたかね」
「はい……」
「我々は伊藤を逮捕するため時間をかけて内偵を続けてきた。伊藤は廃寺を買収して住職におさまり、その肩書を利用して宗教法人という抜け穴を使い、ソープランドやラブホテル、高級クラブ、水子霊霊園にまで手を広げて、これらの収益をごまかして納税を逃れているわけなんだ」
「……」
「それで、先に刑事さんにも聞いたと思うけど、捜査が難航していたところに未成年との淫行情報が入った。君のことだね。罪状は未成年者淫行です。この国ではね、いかなる理由があろうと未成年と性的に関わることは犯罪なんだ。それは分かるね」
「いや、分かりません。あたしは伊藤さんとは何もありません。あたしじゃないです。あたしとは関係ありません」