お母さんはわかんないの
次の録音は、手術から12日が経過した12月16日です。
このとき私はまだ集中治療室にいました。これまでの連載の中で「手術のあと失語症になり『お母さん』と『わかんない』の2語しか出てこなかった」という話を何度か書いてきましたが、なんとその当時の録音テープも残っていたのでした。
旦那 元気そうだね。顔色もよくてよかったじゃない。
清水 うん。
旦那 私が言っていること、わかる?
清水 うん。
旦那(自分を指さして)この人は誰でしょう?
清水 わかんないから。
旦那 わかんない?
清水 お母さんはわかんないの。
旦那 相変わらずわかんないねえ(笑)。私が言ってることはわかってるんでしょ?
清水 そう。
旦那 でも、言葉に出ないのね。
清水 そうそう。
旦那 看護師さんに「靴を持ってきて下さい」って言われたから持ってきたよ。もうすぐ歩くリハビリが始まるんじゃないのかな。
清水 うーん。
旦那 (私につながってる)機械のモニターには、いままでとは違うものが映ってるね。何だろう? アラームがついてる。大丈夫かな。
清水 大丈夫だよ。
旦那 おっ、「大丈夫だよ」が出てきたね。やったね! ちょっとずつね。
「何だっけ」って、初めて言った
清水 お母さん。
旦那 ん? これ? テープレコーダー。あなたの声が入る。訳わかなんないことを言ってるのを録音しておく(笑)。
清水 うわーっ。
旦那 「お母さんはわかんないの」とか言ってるところを(笑)。
清水 わかんないよ。お母さんはわからないのよー。
旦那 声は昨日の方が出ていた気がするね。最初の頃はめちゃ小さかったけど、喉に管を入れたりいろいろしてたから、声が出にくいかもね。ああ、まだ舌が白い。いろいろ薬とか飲んでるからかな。目は綺麗よ。
清水 わかんない。お母さんわかんないからさ、こう、ええと、わかんないから、こうわんなんだよ。
旦那 アハハハ。前みたいに「もうイヤだ!」って感じがないじゃない。ちょっとは大人になったんじゃないの?(笑)
清水 もうさ、もう、わかんないからさー。何だかわかんないわけ。かわぐさんに。
旦那 看護婦さん?
清水 うん。
旦那 看護婦さんには何を言ってもわからないんだね(笑)。
清水 うん。