1ページ目から読む
3/4ページ目

お母さんはわかんないの

 次の録音は、手術から12日が経過した12月16日です。

 このとき私はまだ集中治療室にいました。これまでの連載の中で「手術のあと失語症になり『お母さん』と『わかんない』の2語しか出てこなかった」という話を何度か書いてきましたが、なんとその当時の録音テープも残っていたのでした。

旦那 元気そうだね。顔色もよくてよかったじゃない。

ADVERTISEMENT

清水 うん。

旦那 私が言っていること、わかる?

清水 うん。

旦那(自分を指さして)この人は誰でしょう?

清水 わかんないから。

旦那 わかんない?

清水 お母さんはわかんないの。

手術前の胸中、脳梗塞で失語症になった直後の夫婦の会話などが収められたカセットテープ

旦那 相変わらずわかんないねえ(笑)。私が言ってることはわかってるんでしょ?

清水 そう。

旦那 でも、言葉に出ないのね。

清水 そうそう。

旦那 看護師さんに「靴を持ってきて下さい」って言われたから持ってきたよ。もうすぐ歩くリハビリが始まるんじゃないのかな。

清水 うーん。

旦那 (私につながってる)機械のモニターには、いままでとは違うものが映ってるね。何だろう? アラームがついてる。大丈夫かな。

清水 大丈夫だよ。

旦那 おっ、「大丈夫だよ」が出てきたね。やったね! ちょっとずつね。

「何だっけ」って、初めて言った

清水 お母さん。

旦那 ん? これ? テープレコーダー。あなたの声が入る。訳わかなんないことを言ってるのを録音しておく(笑)。

清水 うわーっ。

旦那 「お母さんはわかんないの」とか言ってるところを(笑)。

清水 わかんないよ。お母さんはわからないのよー。

旦那 声は昨日の方が出ていた気がするね。最初の頃はめちゃ小さかったけど、喉に管を入れたりいろいろしてたから、声が出にくいかもね。ああ、まだ舌が白い。いろいろ薬とか飲んでるからかな。目は綺麗よ。

清水 わかんない。お母さんわかんないからさ、こう、ええと、わかんないから、こうわんなんだよ。

旦那 アハハハ。前みたいに「もうイヤだ!」って感じがないじゃない。ちょっとは大人になったんじゃないの?(笑)

清水 もうさ、もう、わかんないからさー。何だかわかんないわけ。かわぐさんに。

旦那 看護婦さん?

清水 うん。

旦那 看護婦さんには何を言ってもわからないんだね(笑)。

清水 うん。