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藤井聡太三冠の人柄は、羽生さんとは違って……

――師匠と弟子の関係というのは、今と昔ではだいぶちがうものですか?

中川 昔のほうが、より肉親に近い感じがあったと思いますね。それこそ内弟子で生活を共にしていた時代は、親以上だったと思います。だから威厳もあって、とても逆らえないような存在でしたね。

――藤井聡太三冠と、師匠の杉本昌隆八段の師弟関係はどう映っておられますか?

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中川 師匠にとって「目の中に入れても痛くない弟子」という感じがしますね(笑)。

――藤井聡太三冠については、どういった印象ですか?

中川 将棋ももちろん強いけど、なにより人に好かれるところが彼の大きな長所と感じます。女性のファンがたくさんいるっていうのも、なるほどなって思います。あの人柄は天性のものがありますね。

――若いときの羽生先生(善治九段)とはちがいますか?

中川 羽生さんは、十代の頃から明らかに只者じゃなかった。あの「切れるような」感じとはまたちがいますね。

――藤井三冠は?

中川 パッと見た感じは、どこにでもいる男の子。蓋を開けてみたらとんでもない天才ですが、見た感じは可愛らしい感じの男の子ですよね。

 

永瀬くんは光っていましたね

 19歳でプロデビューして、現在53歳の中川八段は、プロ生活30年以上の大ベテラン。数々の棋士とその卵を見てこられたわけだが、「プロになりそうな子」という観点からお話を聞いた。

――中川先生は、2003年から5年間、奨励会の幹事もされていましたが、奨励会の幹事とは、具体的にどういうお仕事なのでしょうか。

中川 月に2回対局があるので、その手合いをつける。そしてきちんと対局ができる環境づくり。あと地味ですが、教育をしていくというのも大事です。

――それは礼儀とかですか?

中川 それも含めて全部ですね。将棋会館に来るのと、学校に行くのとは全然ちがう。将棋はここから発信されていくけれど、名人や竜王だけでなく、君たちもその一員であることを忘れてはいけない――といったことを伝えるんです。ま、そうはいっても子どもです。目を離したらそのへんで転んで怪我をしているような子どももたくさんいる。だから、それをわかるまで何回も言い続けると、わかってくるんです。そうやって根気よく言い続けるのも大事な仕事ですね。

――いろんな子を見てこられて、プロになる子というのは、直感でわかるものですか?

中川 全部が全部、当たらないけど、これはすごいんじゃないかというのは、わかりますね。私が幹事をしていたときは、永瀬くん(拓矢王座)が小6くらいで入ってきましたけど、光っていましたね。やっぱり将棋盤に向かったときにオーラがある。ただそれを生かしきれない子もいれば、そのときがピークという子もいるんですよ。永瀬くんの場合は、それをちゃんと磨いてね。第一人者になりましたよね。

――永瀬王座には、今でも注目されていますか?

中川 そうですね。王座を防衛したけど、これからどういった将棋を指すのか。タイトルを持っているけど、当然、現状には満足していないでしょう。藤井聡太三冠に勝ってこそだと思うので、そこに向けてどう変わっていくのか注目していますね。