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野球ファンだって必ずしも野球をやるわけじゃない

――ちなみに今の将棋界というのは、昔とやはりちがいますか?

中川 今の将棋界を取り巻く環境というのは、僕が若い頃と全然ちがいますよね。なかでも「観る将」というのは、新たなファン層です。おそらく「観る将」ということばはなくても、そういう人はいたかもしれませんが、以前は肩身が狭かったのではないですかね。

――将棋が強くないと、軽々に将棋を語ってはいけないというところはあったのかもしれませんね。

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中川 強い人じゃないとダメという感じはありましたよね。でもよく考えたらそんなバカな話はなくてね、野球ファンだって必ずしも野球をやるわけじゃないからね。

 

――では、とてもいい方向に変わっていると。

中川 ようやく世間一般に追いついた感じですよね。これは本当にありがたいことでね。これまでは、本当に密室で将棋を指して「いい棋譜を世に出す」という使命はあれども、その過程が見られることはほとんどなかったんですよ。今は、その過程を見てもらって、なおかつそれを喜んでいただく。自分たちの存在意義を確認できるようになったことは、棋士にとってとても嬉しいことですよね。

今後、AIとどう付き合うか

 中川八段は、ファンから「解説面白かったです」と言われたりすることも、とても励みになると語る。将棋が中継され、その話題がいろいろな媒体で語られるようになった現在、棋士はいろんなところに活躍の場所を見出すことができるようになったのだろう。最後にこれからの目標についてお聞きした。

中川 まずはAIとの付き合い方をどうしようかと考えています。AIをうまく活用したほうが、技術向上にはいいと思うんですけど、振り回されて体を壊しても仕方ない。だったら今まで持っているもので勝負したほうがいいんじゃないかなとも思うんです。今は、このようにAIとどう付き合うか悩んでいる状況です。たぶん自分と同じような年代の人は、同じように考えていると思います。

――AIを使ったほうが強くなるという単純な問題ではないと。

中川 藤井聡太くんにとってのAIというのは、彼の強さの要素において本当に氷山の一角なんです。それくらい彼のもっている裾野は大きいんですよ。だから藤井くんと同じパソコンを買えば近づけるとか、そんな話ではなくてね。土台がちがうから、当たり前ですが同じパソコンで同じソフトを動かしても全然ちがう。だから今の私のテーマは、まずはAIですね。あとは、今は53歳なんですが、引退する一局まで元気一杯に指したいですね。ヘロヘロになって指すんじゃなくて、闘志満々でバチっといきたいですね。これが意外に大変なんですよ。

 

写真=平松一聖/文藝春秋

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