西野 彼女や彼氏がいないから、寂しくマスターベーションに耽るしかない、というシチュエーションでしょうか。
赤川 そんな感情を抱えながら悶々とする男子は、ゴマンといるわけですね(笑)。
「オナニーをすると、頭が悪くなる」論
また、有害論から必要論へというオナニー観の変遷の歴史はありつつも、実は現代でも有害論が完全に消えてなくなったわけではありません。私たちは、今でもその名残のようなものを抱えていて、そのことが「うしろめたさ」につながっているというのは、確かだと思うのです。典型的なのは、「オナニーをすると、頭が悪くなる」というもの。
西野 大学時代の男性の知人に、通っていた学習塾で塾長から「受験が終わるまでオナニー禁止」を言い渡されていた、という人がいました。それで、友人たちと受験日を指折り数えていた、と(笑)。
赤川 黒板に「手淫」と書いた大正の教師と同じですね、その塾長さんは(笑)。「成績が落ちたのは、オナニーをしたからだ」というのは、今風に言えば「陰謀論」で、もちろん科学的根拠のあるものではありません。しかし、この手の話はなかなか消えないわけで、そこが非常に興味深いわけです。
頭だけではなく、「オナニーし過ぎると、体が不調になる」というようなことも言われます。サッカーのワールドカップ期間中は、日本代表選手はセックス禁止だ、とか。そのオナニー版みたいなものですね。
西野 本当に禁止されるのですか?
赤川 確かめたわけではないのですが、「セックスした翌日は、パフォーマンスが落ちる」というような話がまことしやかに語られ、信じられるわけです。
パートナーがいる人の中には、「オナニーすると、性生活、結婚生活がうまくいかないのではないか」という不安を持つ人もいます。
西野 パートナーがいるから、マスターベーションするのはうしろめたい……。
赤川 一方、「自分は何かおかしいのではないか」と真剣に悩む人もいます。さきほどオナニーするときにどんな想像をするかで、自分が「何者」であるかが分かるという「性的アイデンティティ」の話をしました。オナニーを繰り返すうちに、まさにそうした自らの性的指向、嗜好に気付いて、「人とは違うのだろうか」という疑念を抱え込んでしまう。ある意味、うしろめたさの極致と言えるかもしれません。