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「1点取られるのを嫌がっただろ?だから…」

――落合監督の言葉で印象に残っているものがありましたら教えて下さい。

吉見 やっぱり打たれた試合でのコメントはよく覚えていますよ。スポーツ新聞に載る「監督語録」は「この言葉の意図は何だろうな?」と考えながら必ず読んでいました。

©文藝春秋

 一番印象に残っているのは、2011年の横浜戦で完投負けした試合ですね。試合後すぐに落合さんから「おめぇさん、1点取られるのを嫌がっただろ?」と言われて「はい」と答えたら、「だから大怪我するんだ」と言われたんです。

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 そのときは意味がわかりませんでしたが、冷静になって考えると、1点取られてもいい場面だったのに嫌がって勝負をして、力んで打たれてしまっていたんですね。そういう駆け引きを教えてもらっていたんです。

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「抑えた! よっしゃ!」「打たれた! うわー!」だけでなく、状況を見ながら「この1点は取られても流れは変わらない」のか、「この1点は流れが変わるから絶対に抑える」のかを考えるようになりました。それまでは相手を抑えることしか頭にありませんでしたが、落合さんに言われて以来、自分で試合の流れを考えられるようになりましたね。

竜のエースが見た「落合監督」のすごさ

――吉見さんが感じた、落合監督が他の監督よりすごいところとは、どんなところでしょう?

吉見 やっぱり試合勘でしょうか。先を読む力がすごいので、「お前、こうだぞ」と言うと、次々にそれが当たる。僕だけじゃなくて他の選手についてもそうでした。観察力、洞察力、試合の先の流れを読む力は、采配にも必ず生きると思います。瞬時に今のことにも対応しつつ、先のことも考えなければいけないものですからね。

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 実はピッチングもそうなんです。今、対峙しているバッター相手に投げなければいけないのですが、先を読みながら投げることも必要になります。それができる人なのが落合さんだったと思います。

 もう一つは、レギュラーも控えも含めた選手全員を同じ方向に向かせるのがとても上手なところですね。具体的に挙げていくのはなかなか難しいのですが、サインの出し方、継投、采配、すべてそうで、試合が始まると、監督があれこれ言わなくても、みんなが同じ方向を向き出すんです。

2010年、巨人とのクライマックスシリーズ・ファイナルステージ第2戦で力投する吉見氏 ©文藝春秋

 たとえば、大量得点が期待できるノーアウト満塁のチャンスでも、「ゲッツーで2アウト三塁になっても1点入ればいい」なんて考え方は、僕は知りませんでした。ついつい、1点では物足りなく感じるかもしれません。でも、勝つための流れであれば、それで十分なんです。当時は本当に、気がついたらロースコアで勝っていた、という試合が多かった。1対2で負けていても「また今日も同じ展開か」と思いながら最後には勝っていました。

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 誰よりも勝つことに執着していた落合さんが、チーム全員と「優勝」という目標を共有していた。選手たちも、試合の中でそのために自分が何をしなければいけないのか、どこが勝負のポイントなのかを知っていました。落合さんが言葉ではなく、采配を通して教えてくれていたんです。そういう意味では、当時は頭の良い選手が多かったんだと思います。

 

 

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。