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《『おかえりモネ』最終回》「お姉ちゃんは正しいけど冷たいよ」…百音・菅波の“東京組”が、決して「ロールモデル」ではなかったワケ

CDB

2021/10/29

 朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』の主題歌BUMP OF CHICKEN『なないろ』は、オープニング映像の時間に合わせて編集されている。もちろん他の作品の主題歌も多くがそうだ。

 だが、『ひよっこ』の桑田佳祐も、『なつぞら』のスピッツも、『カーネーション』の椎名林檎も、冒頭の歌い出しはそのままに、他の部分をカットして尺に合わせているのに対して、『おかえりモネ』は本来の冒頭の歌詞「闇雲にでも信じたよ きちんと前に進んでいるって……」の部分をカットし、通常カットされがちな2段落目のフレーズから歌が流れるように編集している。

『おかえりモネ』公式サイトより

 それはもちろん、そこに視聴者に聞かせたいフレーズがあるからだ。最終回まで毎朝、約120回繰り返されることになる番組OPの冒頭に、制作スタッフは明らかに意図して「そのフレーズ」を選んでる。

 BUMP OF CHICKENの洋楽的なサウンドと歌唱で歌われる、その最初の歌詞を聞き取れない、あるいは聴き流した視聴者もいるかもしれない。だが主演の清原果耶は、たぶん「そのフレーズ」に込められた文字通りの主題、作品のテーマに気が付いているのだろう。

―「最近ハマってる歌はありますか?」

 

 BUMP OF CHICKENの「なないろ」です。

 

 とっても素敵なメロディの曲で、撮影の合間にもよく口ずさんでいるんです。「なないろ」の歌詞に「ヤジロベエみたいな正しさだ」という一節があるのですが、この歌詞がすごく好きで。「ヤジロベエ」という語感がとっても新鮮で心に響きました。

 2021年5月、まだ撮影のまっただ中で行われた『高校生新聞ONLINE』のインタビューに対して、清原果耶はそう答えている。

清原果耶 ©️AFLO

「厳しい現実へ踏み込んでいない」、「感動ポルノだ」…

『おかえりモネ』が被災地を舞台に選ぶと知った時、ある種の危惧を感じた。それは現在の、解決できていない問題に向き合うことを意味しているからだ。

『おかえりモネ』は菅原小春のアスリート役での起用を見ても、大河ドラマ『いだてん』へのオマージュ、ある種の継承を意識していると思えるのだが、『いだてん』もまた日本の近代史、中止になった幻の東京五輪という「動かせない歴史」をテーマに選ぶことで、娯楽性と倫理の綱渡りのような厳しい道を歩くことになった作品だった。

 SNSがドラマに「正しさ」を求める傾向はこの3年で天井知らずに高まっている。甘く描けば「厳しい現実へ踏み込んでいない」、感傷に流れれば「被災地を感動ポルノとして消費している」という批判のリスクが待ち受ける中、安達奈緒子の脚本は主題歌が歌う「ヤジロベエ」のように綱渡りの綱の上でバランスを取りながら120話を歩き続けた。

 正義の女神・ジャスティスが秤と剣を左右の手に持って描かれることは有名だが、OPで歌われる「ヤジロベエみたいな正しさ」は、この物語の「正しさ」が断罪する剣ではなく、理性で世界を測る秤の側に立つことを告げているように思えた。