昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「うるさい」「意味ない」とSNSでは大不評だが…選挙カーや演説がそれでも“コスパがいい”と言えるワケ

2021/10/29

 衆院選の真っただ中、選挙カーが候補者の名前を連呼しながら駆けめぐり、街のいたるところにポスターが貼られ、駅前などでは支援者によるビラ配りや候補者の演説が行われている。この手の選挙運動に冷笑的な人もいるが、これをなくして何万もの人たちに名前を書いてはもらえまい。

 こうした選挙戦の裏で活躍する、「選挙参謀」「選挙プランナー」と呼ばれる人たちがいる。その書籍――小沢一郎の初選挙で参謀となって当選に導いた鈴木精七の『選挙参謀、手の内のすべて』(講談社)や、石原慎太郎の都知事選などの選挙運動を手掛けた三浦博史『あなたも今日から選挙の達人』(ビジネス社)『心をつかむ力』(すばる舎)は、選挙の内幕を知るための読み物として面白い。

 これらを読んでいくと、選挙とは人間の機微への理解と経験則の集積であるとわかる。

SNSでは不評の「選挙カー」、知られざる鉄則

 たとえば選挙カー。鈴木は同乗するウグイス嬢は初心者のほうがよく、ベテランだと余計なアドリブを入れるなどして有権者に“選挙慣れ”している印象を与えてしまい、浮動票を逃してしまうという。

 また三浦は、走行中に演説しても名前がわからなければ何の意味もないので、短いキャッチと名前の連呼に徹したほうがいいと説く。その際、田んぼの向こうで手をふる人がいたら、遠く離れていても目線が合えばわかるものだから、きちんと相手の顔を見て手をふって応えることを助言する。

©iStock.com

 こうした選挙運動の裏側を映し出したのが、『なぜ君は総理大臣になれないのか』(以下、『なぜ君』)だ。昨年公開され、ロングラン上映されたドキュメンタリー映画である。

 これは、香川1区を選挙区にする野党議員・小川淳也の政治活動を追ったもの。彼は2003年に官僚を辞めて、衆議院選に民主党から出馬する。ところがとにかく選挙に弱い。それでも比例復活での当選を重ねるが(小選挙区では1勝5敗)、うだつが上がらずにいる。そうした小川議員の苦闘とそれに巻き込まれる家族の葛藤を描いたものだ。

 以降、選挙参謀/選挙プランナーなどの書籍と、この映画とを照らし合わせていきながら、選挙の実相を見ていく。

 映画のなかでは実に17年もの月日が流れるのだが、小川は若々しいままでいる。それとは対照的に、彼の妻は映画が進むにつれて、どこか人生の疲れを感じさせるようになる。それはそうだ。彼女は、夫の政治活動を支えるだけでなく、母として子供ふたりを育てあげているのだから。

 こうした苦労は映画では省略されているけれども、後半になると、彼女の表情やそれが滲み出て、見る者の前に立ち現れるのだ(そのためこの映画にはジェンダーの観点からの批判がある)。