政治家にもある「配偶者ブロック」
なるほど政治家/立候補者の妻はたいへんだ。会社員や官僚であれば、夫は出馬にあたって仕事を辞めるうえ、選挙資金のために貯金も取り崩しさえする。おまけに落ちたら恥をかくうえ、無職になってしまう。当選したらしたで、夫は東京と選挙区を往復する生活となり、家族はバラバラになる。だから配偶者は反対するものだ。
そんなわけで鈴木も三浦も、候補者は選挙に出ると心に決めたあと、最初にすべきことは配偶者の説得だと記している。
それどころか配偶者を説得できないくらいないなら、立候補は取りやめたほうがいいとまで三浦は言う。配偶者が選挙運動にくわわってくれれば、会合の代理出席や個人演説会の分担など、手分けして行えるものもある。候補者の分身としての活躍の期待があるからだ。
しかし配偶者が選挙運動で果たす効用はそればかりではない。
選挙戦には大勢のボランティアを必要とする。候補者の配偶者が現場に出てこなければ、その人たちは「自分は無報酬でも必死になってやっているのに、候補者の家族は家でのんびりしているのか」と思ってしまう。それが人間の感情というものだ。
だから鈴木は、「後援会会員の気持ちをひとつにして、活動を盛り上げるには、奥さんの協力がどうしても必要」であると説く。また人というものは、夫婦で頼みごとに来られると、本気のお願いだと感じるものだという。
また鈴木は、候補者の妻に「一度でいいから」と言って支援者の前で挨拶をさせ、最後に心を込めて「ありがとうございました」と言ってもらう。すると驚くことに支持者の多くは涙を流すのだという。
妻の土下座が「名物」となった政治家
それでいえば、その昔、テレビで衆議院議長まで務めた原健三郎の妻の姿がたびたび映し出されていた。彼女は土下座と泣きを得意にし、地元の人に「そろそろ土下座がでよるで、なんて見てる方も期待してます」「この芝居がかった泣きが入ったら、淡路の票は固まる」と言われるほどであった(注1)。
ここまでくると、ひとつの芸の領域に達している。その甲斐もあって、ハラケンは20回連続当選の偉業を残した。
このように家族というものには、人の心を揺さぶる力がある。『なぜ君』の小川はそれをしたたかに使うのだ。