「あれ、読んでくれました?」
文庫版あとがきでは、石原慎太郎とのイジメ論争(ボクは以前に『藝人春秋』のなかで引用している)と共に、慎太郎のビンタ肯定論に対する反論を、父親の戦時中の軍事訓練でのエピソードと共に描き「子供には決してビンタを受けさせない」と誓っていた在りし日の父親像を想い出深く綴っている(正直、文章家の太田の作品のなかでも随一の名文だ)。
だからこそ本当はそのまま、ビンタ肯定論の殿を交えて、生放送でこのビンタ論争をやりたかったのだが、いかんせん出たとこ勝負で、そちらへ話の流れが向かわなかった。
殿が着席し、怒涛の生本番へと突入。
いきなり不倫問題について太田から「一線を超えた」の言葉の定義を尋ねられると殿は「男性器がですね、女性器のなかに突っ込まれて3回以上動かしたら......」と初回から期待通りの不規則発言を繰り返した。
番組は2日間順調に進んだが10月4日、中日の水曜日に恐れていたことが現実となる。とうとう殿が十八番の「たけしのズル休み」を上演したのだ。その日、たけし不在のまま、ボクと太田は2人きりで、ぎこちなく時事ネタを語り合い、最後に松村邦洋に電話を繋いで殿のモノマネをさせてなんとか乗り切った。翌朝、マスコミ各社はこぞって「たけし、生放送を無断欠席!」と報じた。
とはいえ「部屋にお化けが出た言うて『ひょうきん族』を休みよった!」と、長年、明石家さんまによってこの悪癖が喧伝されていることなども手伝い、どこも論調は、むしろ好意的。当のテレ東スタッフさえ「おかげで話題になりました!」とありがたがる始末だった。
「細工は流流仕上げを御覧じろ」
かくして、金曜日まで辿り着いた早朝番組は各方面に波乱を呼びながらも無事終了した。 そして冒頭の台詞――。
生放送後の楽屋前で1週間後に迫った爆笑問題の事務所が主催する『タイタンライブ』への出演依頼を太田は殿に再確認した。その依頼は「来てくれるだけでいい」というフリートークのゲストではなく、落語を一席演って欲しいというハードルの高いものだった。
昨年2月12日、殿は同ライブの20周年記念公演に出演し、立川談春の弟子・立川梅春として『人情八百屋』を披露した。太田は殿が江戸弁で語る、その高座姿を「まるで志ん生のようだ」と称えた。