辛いのは家族へのバッシングです。僕への中傷は自分のことだから幾らでも受けますが、家族は関係ない。しかも僕がここまで野球をやってこられたのも、僕のわがままを黙って見守ってくれた家族の支援があってこそ。だけど僕が野球をやり続けると、批判の矛先が家族にも行ってしまう。家族を守らなければならない僕が、結果的に家族を傷つけてしまうことにもう耐えられないなって。
――引退記者会見で家族の話になった時、涙ぐんだのはそんな思いがあったからなんですね。
松坂 いや、記者会見での不覚の涙は、結果的にやらかしてしまった、という反省しかないですよ(笑)。僕の態度のせいでまた妻がクローズアップされ、その中には中傷もあり、また家族を傷つけてしまうという……。結局、僕が家族のことに触れると、妻にも興味が向いてしまうので、もう家族の話は一切しないことに決めました。
家族のことが少し出るだけで、また妻に矛先が向くのが嫌なんです。子供たちもナイーブな年齢に差し掛かってきましたし、今まで以上に僕が家族を守らなきゃならないと心新たにしましたね。
だからここでこうやって今、家族のことを話すこと自体、正直、躊躇いがあります。
こう見えても、僕は実は繊細な人間なんです
――松坂さんと違って奥様は繊細な方ですからね。
松坂 僕、大雑把に見えていましたか? でももしそう捉えられているとしたら、プロで生きていく上での対処法でそう装わざるを得なかったという部分もあります。
プロ選手である以上、成績が伴わなければバッシングされる。それは当然のことです。ただそれを全部引き受けてしまうと心身が保てなくなるので、気にしないふりをすることが、精神的に一番楽だったんでしょうね。だから敢えて細かいことは考えないようにしていた。
こう見えても、僕は実は繊細な人間なんですよ(笑)。
慙愧の念は一生忘れない
――例えばどんなバッシングがあったんですか。
松坂 給料泥棒とか(笑)。ただ、そう言われるのも当然です。僕が辛かったのは、言葉そのものではなく、ソフトバンク、ドラゴンズ、ライオンズでの7年間、ファンや球団、関係者の期待に応えられなかったことです。もちろん、1日も早くマウンドに上がりたい一心で日々の治療やリハビリ、練習に打ち込んできましたけど、結局その期待に応えることができなかった。
引退試合が感動的なものだったからと言って、日本での7年間がチャラになるとは微塵も思っていません。活躍する場を用意していただいたにもかかわらず、期待に応えられなかった。その慙愧の念は一生忘れないし、一生背負っていくつもりです。
――えっ、一生ですか……。
松坂 もちろん。ただ、野球選手を辞めた以上、マウンドで恩返しすることはできないので、今後何らかの形で球界やスポーツ界に恩返しができればと考えています。
(#3に続く)
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