昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/11/06

首から酒入り哺乳瓶を提げていた俳優

安藤 それは、生前に感謝を伝えられなかった、ということ?

松尾 それもあるし、その人のまわりの人間と俺が仲たがいしちゃったのもあって、お別れの会とかに顔を出せなかったことがいまだに心残りで。その人に俺は酒を教えてもらったんですよ。

安藤 『矢印』の主人公は、ひたすら飲み、妻と壮絶な喧嘩を繰り返す中で、かつて自殺した、半端ない酒飲みだった放送作家の師匠との関係に思いを馳せていきます。彼らのような間柄だったんですか。

松尾 あそこまでベッタリ一緒にいる感じではなかったですけどね。でも、その人とは何度も一緒に仕事をさせてもらいました。まったくコネのない状態で芝居を始めたから、そういう存在がいてくれたことは、すごく心強かった。

安藤 その方は、やはりずっと飲んでいたんですか。

松尾 さすがに昼からは飲んでなかったと思うけど。あとは、さっきアンタマが言ったみたいに、演劇界隈では酒飲む奴が多いから、無意識のうちにモデルにした人もいるかもしれない。例えば、われわれの共通の知り合いの俳優Kくんみたいな人ね。

安藤 高校2年で飲み出して中退したという伝説を持っていて。

松尾 昔は首から日本酒入れた哺乳瓶提げてたっていうもんね。

安藤 まんま『命、ギガ長ス』のオサムさんじゃないですか。哺乳瓶に菊正宗入れて。

松尾さんと安藤さんの二人芝居『命、ギガ長ス』 ©引地信彦

松尾 あの役のモデルは彼だからね。うちの劇団に出てもらってた頃はすごかったよ。舞台前にお酒を飲む人はさすがに初めて見た。

安藤 すごく荒れてたそうですね。

松尾 本当はすごく気の優しい男じゃないですか。だから、何に対して怒りがあったのか、俺は分からなかったんだけど。でも、今は奥さんと二人で酒を断ち切ったんですよね。話題作にも出ているし、ブレイクしかけている感じがあって良かったなと思う。

コロナ禍になり、カクヤスへの電話が止まらない

安藤 お酒といえば、コロナ以降、外で飲む機会がめっきり少なくなりました。松尾さんはどうですか。

松尾 人との付き合いの中で酒を飲むことは、極端に少なくなりましたよね。代わりに家では飲んでますけど。カクヤスへの電話が止まらない。

安藤 まあ、私も似たようなものです。

松尾 今、酒が完全に悪者扱いされているじゃないですか。一人で酒場に行って、まわりもみんな一人で静かに飲んでれば、何も問題ないように思うんだけど。まあ、そういうことを訴えたくて書いたわけじゃないけれども。