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 モニターをじっと観ながら、私は樹木さんの所作の端々に、なぜか武田先生を感じた。仕覆の口を広げて、着物を脱がせるように茶入れを取り出す時の、小さくて大切なものを扱う指の動き。帛紗で茶入れを拭き下ろす時の、右肩で一瞬止まるタイミング。たっぷりと汲み上げた湯を、嶋台茶碗へ運ぶ、ゆるやかな動線。

 長い長いお点前だった……。そして、

「カーット!」

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 監督の声がかかった。

 その直後、樹木さんが「大丈夫だった?」と、こちらを見た。

「茶道、OKですか?」

 大森監督と助監督も、同時にこちらを振り向いた。

「OKです!」

 一発OK。その瞬間、息もせず見守ってきたモニター前のスタッフから、「はぁ~」と、一斉に安堵のため息が漏れた。

 人間業ではないものを見た気がした。

 集中から解き放された樹木さんは、急によれよれとして、「あ~、疲れた」と、呟いた。

 難航したのは、別撮りの、濃茶を練る樹木さんの手のアップの撮影だった。

 カットがかかった途端、K子さんと私は「練りが足りません」と手を上げた。

©文藝春秋

 薄茶はサラサラと点てるが、濃茶はたくさんの抹茶を茶碗に入れ、適量のお湯を注いで練り混ぜる。お湯も、一度に全部入れるのではなく、二回に分ける。最初にお湯とお茶を、ダマができないように気を付けながらよく練り混ぜて、二回目のお湯を必要な分量だけ注ぎ足して、細かく練り、とろりとした濃茶にする。

「樹木さん、もっと練ってください。今の三倍の回数、練るつもりで」

 撮り直しになった。しかし、二度目もまだ練りが足りない。

「樹木さん、もっともっと練ってください。手首を使って、ココアを溶くように。途中で、お茶の感触が変わりますから、それを感じてください」

 と、説明したが、樹木さんは「それがわからないのよう」と言う。

「あなた、私の前でサインを出してくれない?」

「よし! ここに台を置こう」

 大森監督が、カメラのすぐ脇に、蜜柑箱のような台を置かせた。

「森下さん、ここに座ってください」

「はい」

 私は蜜柑箱に腰かけて、樹木さんにサインを出すことになった。

「私が右手首をぐるぐる回している間は、練り続けてください。一度、手を下ろしますから、そしたら、お湯を少し足してください。その後、また手首をぐるぐる回しますから、その動きが止まるまで練り続けてください」

「よーい……スタート!」