責任感と美学
萩原 天井からチューブを支える構造もよく見るようになったんです。多分これは業者さんが作ってらっしゃる。有楽町もそうですね。
杉山 たるんでいるチューブはだらしないという美学を感じますね。
萩原 写真を投稿していると、日本が衰退した証拠だと言う方がいるんですけど、僕はそうじゃないよって思います。自然現象だから、あらゆるものは老朽化していくんですけれども、その中でプラスに感じられるものを見つけたいなと。最近はちょっと意識過剰ですけれど、有楽町駅のような駅もれを見ると、「すごい技術を編み出してきた。俺に見せつけている!」と思ったりもします(笑)。
杉山 だんだん見栄えも良くなっているし、駅員さんの努力を褒めようと。
萩原 例えば、台風のように水が大量に地下に流入するとき、たとえ漏れが発生しても、数日後にはしっかり処理されている。対応の早さもすごいんです。
鉄道建設業界OBに聞く
しかし、本当に安全性に不安はないのか。かつて青函トンネル工事に関わり、後に全国の鉄道建設現場を指揮した日本鉄道建設公団OBに話を聞いた。
杉山 「駅もれ」の原因はなんでしょうか。
鉄建OB 地下駅や地下室は、海に浮いているコンクリートの船と思っていただければよいと思います。コンクリートの塊と聞くと重いので浮いているとは想像できないかもしれません。しかし、水の浮力はその重さを浮かせるほどです。
上野の新幹線駅を例に挙げると、建設する当時は東京都の地下水位全体が下がっていて、工事は簡単にできました。しかし、その後の地下水の汲み上げ規制により、地上付近まで地下水位が回復しました。その結果、駅全体が浮力で浮き上がりそうになり、慌てて新幹線のホーム下や地下空間に鉄のインゴットを搬入して重量を稼ごうとしたのです。ところが浮力はそれを上回る勢いだったため、地下室から下に向けてグラウンドアンカーを打ち、浮き上がりを防止しています。それでも、例えば武蔵野線の新小平駅は急激な降雨で地下水位が上昇し、浮き上がってしまったという事故が起こったこともありました。
杉山 それほどの強い水圧だと、コンクリートにわずかなひび割れがあれば滲みだしますね。
鉄建OB コンクリートは固まると乾燥収縮という現象で必ず細かいひび割れが生じます。そこで、地下駅や地下室ではコンクリートの表面にゴム状の材料を張ったり塗ったりした防水工事を行います。しかしこの防水層で食い止められなかった、ほんの僅かな隙間からでも水は出てきてしまいます。