――犬を飼っていると、徐々に飼い犬の表情がわかるようになるといいます。「水を飲みたいのかな」とか「いまは遊んでほしくないのか」とか。その点、ポン太はあえて無表情に描いていませんか?
田岡 そうです。たまに怒った表情や嫌がっている表情はありますけど、露骨な表情は描いていません。割とニュートラルな顔をしています。
――それは意図的に?
田岡 リアルに犬を描きたい一方で、ポン太はマンガの登場人物なので、キャラクターとしても成立させたい。言ってしまえばキャラクターの性格付けであって、ポン太は「クールなキャラ」なんです。
飼い主は犬に「たいてい、どうでもいいことを言っているんですよ」
――動物マンガは「動物が面白い行動をして人間がツッコむ」という構造が多いと思いますが……。
田岡 『今日のさんぽんた』は逆ですね。「犬を描きたかった」とは言いつつも、本質的にやりたかったことは、「愚痴を言う女の子とそれを聞く犬」みたいなところです。女の子が適当に話しかけ、犬はそれを理解している、と。
僕もそうですが、犬に話しかける時ってたいてい、どうでもいい、アホなことを言っていると思うんです(笑)。
――「飼い主あるある」ですよね。
田岡 りえ子はしょうもないことを考えるんですけど、それは僕の素が出ているところはあります。そういった、しょうもないことを犬が冷静に聞いていたら面白いな、と。そこから始まっている作品です。
りえ子とポン太のシチュエーション・コメディ
――主人公の独り言に対し、しゃべれないものがツッコミを入れるという形式は、前作『吾輩の部屋である』に近いのかな、と感じました。
田岡 近いです。
――前作では主人公にツッコミを入れるのは無生物(カバの置物、照明など)でしたが、今作では生物(ポン太)になり、やり方を変えた点などあるのでしょうか?
田岡 前作は主人公が完全に“独り言”を言っていて、それに家具たちがツッコミを入れていましたが、今作ではりえ子がポン太に“話しかける”ようになっています。
――前作に比べて、ネーム(フキダシやナレーションなどのテキスト部分)がすごくスッキリした印象があったんですが、それは会話調にしたからなんですね。
田岡 今だからいえますが、前作はそこで苦労したこともありました。会話調にすると、主人公が「物にブツブツ話しかけている人」になってしまう。だから、あくまで独り言にしなければいけなくて、そこは譲れないラインだったのですが、一方でやや回りくどくなることもあったように思います。まあ、前作の主人公は理屈っぽいキャラクターだったので、それはそれでアリだったんですけど……。