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予兆のような『死の島』
——藤田さんの病気がわかる前に、小池さんは癌で余命わずかな男を主人公に『死の島』(文春文庫)という小説を発表されています。
小池 そのことは、私も不思議でしかたないんです。「オール讀物」で連載が始まったのが2016年。藤田に病気の兆候なんてまったくない時でした。
『死の島』でとりあげたのは長年あたためてきたテーマです。まさか夫が発病するとは思ってもいませんでした。でも、「もしかしたら、あれは藤田さんがモデルだったんじゃないですか」ってあとでいろんな人から聞かれて。本が刊行された直後に彼の病気が発覚したので、そう思われてしまったのでしょうね。
作家って、予兆めいたものがひらめいて、無意識にそれを作品化してしまうことがあるような気がします。私が『モンローが死んだ日』(新潮文庫)を書いた時もそうでした。孤独のうちに精神が不安定になっていく主人公を2匹の猫と暮らす未亡人にしたのは、自分が2匹の猫と暮らしていたからそうしただけなんですけど、彼女の夫は癌で他界したばかり、という設定なんですよね。
言霊というのは、ふつうは発した言葉に宿るものですが、私たち作家の場合は書く言葉にこそ、何かが宿ってしまうのかもしれません。虚構の世界を言葉で練り上げていくうちに、言葉通りのことが起こってしまうのです。
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「小池真理子『かたわれ』の死を書く」(聞き手・佐久間文子氏)は月刊「文藝春秋」2021年12月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
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「かたわれ」の死を書く
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